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Ensemble Game Classicaで思ったこと

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By nosha
11月3日、日本においては文化の日だ。2012年のこの日、私はEnsemble Game Classicaという、ゲーム音楽の演奏会に足を運んだ。

Ensemble Game Classica公式サイト
http://egc.txt-nifty.com/

「実にゲームファンらしい、文化の日の過ごし方ではないか」となにやら妙な優越感を胸に会場へ向かったのだが、初めて味わうその時間は恐ろしく甘美で、胸を打ち震わせるには十分すぎる内容であった。

会場ではパンフレットが配られていて、目を通すとその日の演奏曲、そして取り上げるゲームに関する情報が記されていた。いや情報というよりかは、作品に対する熱意とも形容すべき内容である。なかでも最後に綴られていた、Ensemble Game Classicaの代表、大澤久氏の抱く想いがとても印象深かったので、大澤氏の許可をいただき、以下に転載させていただく。
ゲーム音楽とクラシック音楽について思ったこと

大澤久

我々は普段はクラシック音楽を演奏しています。もちろん仕事でポップスやそれに類する音楽を演奏することもありますが、元々はバッハやベートーヴェンといった西洋クラシック音楽に惹かれて音楽の道を志した者達です。でも、世代というものはやはりあるわけで、我々アラサー(という年齢になってしまったのだなぁ)の世代の多くはテレビゲームという文化に慣れ親しんできた世代でもあります。しかしながら、ゲーム音楽をガチで演奏しようという発想を思いつき・実践している人は案外少なかったりします。理由としては、クラシック音楽のほうが楽しいから、というのが大きいと思います。

僕はゲーム音楽はもちろん好きですが、バッハやベートーヴェン、ブラームスを聴いていた方が深い感動を味わえる、と、やはり思ってしまいます。それに気づいたのもわりかし最近ではあるのですが…。しかしゲーム音楽を聴いたり・演奏しているときに感じる、クラシック音楽をやっている時にはけっして感じることのない感情もまた、あるのです。それはやはり、幼少時・思春期に体験したできごとの追体験を肌で感じるからなのだと思います。

たとえば、田舎のおじいちゃん・おばあちゃんの家に行ったときの匂いを、ふとしたときに嗅いだ時、懐かしいノスタルジックな気分に浸れるように、ゲーム音楽を聴いたとき、童心に帰ることができます。クラシック音楽ではあまり感じることのない現象です。

ゲーム音楽はそこがいいんです。曲として完成度は正直な話し、クラシックにはおよびません。でも、祖父母から散々繰り返し聞かされたおとぎ話のよに、学校のチャイムのように、あるいは給食のコッペパンの味のように、自分の心の原風景を思い出させてくれる、鍵となる。

さて、ではいざ生演奏する時、どうすればいいだろうか。そう考えたとき、二つの考えが葛藤を始めます。原曲をそのまま再現して、アレンジを避けるべきであるという考えと、生演奏するのだから、多少は演奏効果があがる工夫をアレンジを以ってすべきであるという考えです。これについては色んな考えがあると思います。正直、これは好みの問題と思います。公式のアレンジCDでも、これはナイなというアレンジもあるし、マイッタ!これは良い!と思うアレンジもあります。それはアレンジャーの趣味とセンスが自分に合うか合わないかの問題です。

音間違いやフレーズの作りが原曲と違う場合もよくあります。単純に音が取れなかったケースもままありますが、これも編曲者の「解釈」である。と認識し、受け止めることができると、また、ゲーム音楽の演奏・鑑賞が楽しくなるかもしれません。

クラシックの場合はフレーズの作り方や音符は、作曲家の指示・時代のスタイルを踏襲するという考え方が支配的ですから、あまりそういう楽しみ方はできません。もちろん、そういう枠組みの中でいかに工夫し、面白くするか…というのがすごく面白いのですけれども。

スペースがなくなってきました。ゲーム音楽を演奏すること・聴くことというについて演奏する立場かあ4年間ほどわりとマジメに考えてきたので、色々言いたいことや、議論したいことはたくさんあるのですが、この辺りで失礼いたします。

またみなさんとお会いできる日を楽しみにしております。

※タイトルの太字は、私の手によるもの。ほかは原文のままである
私は熱心なゲームファンを自負しているので、「クラシックのほうが深い感動を味わえる」と言われれば、なにか寂しい気持ちがしないわけではない。ただ、ゲーム音楽はゲームプレイと密接に関わっており、作曲に対して抗えない制約が課されているのは間違いないだろう。、そう思えばこれは否定しがたい事実なのだと思う。

しかしながら、そのように感じている彼が、あるいはクラシックを愛して音楽の道を志した人たちの何人かが、ゲーム音楽に対して特別な気持ちがあるのだということがうれしくて仕方なかった。そして、その特別な心情の現れが、このEnsemble Game Classicaという活動なのだ。

惜しいことにEnsemble Game Classicaは、第10回となる今回の活動をもって、ひとたび活動が休止してしまう。彼らの活動はアンダーグラウンドなもので、もとより懸念事項であった著作権と対峙した結果である。時間が流れるだけでは解決されない大きな問題ではあるのだが、いつか彼らが活動を再会し、またあのような素敵な時間が味わえるときを待ちたいと思う。

『BREAKS』の感想 東京ロケテゲームショウver

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センス・オブ・ワンダー・ナイト 2012で知って、ずっと気になっていた『BREAKS』をプレイすることができたので、紹介がてら私の感想を簡単にまとめてみたい。プレイしたのは、東京ロケテゲームショウ*1に展示されていたもの。これは開発中のもので、最終的な製品版とは仕様などが異なる可能性がある。

また、プレイ時間が限られていたこともあり(イベント中プレイする人が途切れなかったほどである)、推測や個人的希望、誤認などが含まれている可能性があるので注意してほしい。

*1 2012年11月11日に板橋区で開かれた同人ゲーム、及びインディーゲームの展示会。30のゲームが出展した

東京ロケテゲームショウ特設サイト
https://sites.google.com/site/locate121111/home

関連記事
センス・オブ・ワンダー・ナイト 2012 雑感 - 『BREAKS』の記事
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/09/2012.html#sown2012_breaks

『BREAKS』ってどんなゲームなの?

簡単に説明すると、ブロック崩しに音ゲーをミックスしたようなゲーム。恐らく「音ゲー」と例えられるのは、開発者としては不本意なのだと思うが(理由は後述)、ここではわかりやすさを優先してあえてこの言葉を使わせてもらう。

ゲームは円型のステージを舞台に、白い球型の自機を操作してプレイする。操作はスライドとスワイプで行い、ステージ上に現れるブロックにボールを当てて破壊していけばよい。1曲終わるまでに規定数以上のブロックを破壊できればクリアとなる。

ボールがステージ外周やブロックに当たると跳ね返るのもブロック崩しと同様だ。ただ、ブロック崩しとは異なり、壁などに当てなくてもボールはある程度自由に操作できるようになっている。また、ステージ外周の白くなっているところ(この場所は自動で移動し続けている)にボールを当てると、ボールがブロックを貫通するようになる。

また、本作では以下のような要素によって、画面とBGMにエフェクトがかかるのが大きな特徴だ。

  • スワイプ方向
  • タッチ数
  • ブロックを破壊したかどうか
  • 自機が破壊されたかどうか

この特徴から、いわゆるインタラクティブミュージックと呼ばれるものの一種と言っていいだろう。音ゲーが目指した演奏のシミュレート体験とは違って、『BREAKS』では自発的に演奏する(パフォーマンスを創り出す)といった方向性が重視されている。

音ゲーでは、行うべき操作とそれによって導かれる結果はあらかじめほとんど決まっている。一方で『BREAKS』では、ある程度自由な操作が許容され、さらに操作によって現れるエフェクトが予期しがたいものになっているのだ。これが『BREAKS』の特色であり、本質的に音ゲーと異なる点だ。

譜面が用意されず、正解となる操作がない音ゲーと言ったらわかりやすいかもしれない。『BREAKS』は今までのどの音ゲーよりも、楽器的だ。弾くのはあなたで、それをどのように弾くかもあなた次第なのだ。

現状のいいところ、悪いところ。そして要望

プレイしてまず感じるのは画面エフェクトの楽しさである。スワイプ時は、指の接地面とボールとの間にエフェクトが発生し、マルチタッチ時は接地面数に応じてエフェクトが増える。これが単純に楽しい。スワイプ操作との相性も頗る良好で動かすだけで楽しい。雰囲気の好みはあれど、間口は広い。
マルチタッチすると、指と指の間があやとりのように線のエフェクトで結ばれる
私はたまたまプレイ中にマルチタッチの存在に気づいたのだが、そのときはかなり気分が高揚したのを覚えている。可能であれば「最初はシングルタッチのスワイプ操作で楽しませて、時間差でマルチタッチ操作に気づかせる」という風なデザインがよいのではないかと思う。

悪いところはBGMの変化がわかりがたい点である。リプレイをすることで見えてくる側面もあるのかもしれないが、ウリとなっている部分をプレイヤーが明確に意識できないというのはやはりもったいない。きっと開発者自身もこの点については把握しているであろうと想像するが。

ボールが失われる条件がイマイチはっきりしないことも気になった。動画で確認したかぎりでは、ブロックが発する赤い帯状のエフェクトにボールが当たるとアウトになるように見える。
自機であるボールが消滅すると
「Left 7 Balls」 というような表示が出て、すぐさま仕切り直しとなる
複雑な操作や難易度の高い操作が、たぶんスコアには結びつかないのではないか、ということも気にかかる点である。『BREAKS』自体が実験的な要素を多分に含んでいるし、スコアを目指すゲームではないのだろう。それでもいかにしてプレイヤーの意欲を引き出すか(だいたいのゲームではこれがスコアなり、クリアなりである)というのは、難しい問題ながらどのように着地させるのか注目していきたい。

ここまで読んできた方は、ひょっとすると「悪いところしか書いてないじゃないか」という印象を受けるかもしれない。しかし、本作は決して悪いゲームという感触ではなかったし、むしろ個人的には果てしないまでの可能性を感じている。プレイする前は半信半疑だったものが、プレイを経て確信へと一歩近づいたという印象である(製品版がリリースされるまでは、評価を下せないとしても)。

そこに込められた心意気も、表現の仕方も実に素敵で、だからこそ、よさを上手く伝えられないのがもどかしい。自身の表現力の拙さを呪わざるを得ない。

リリース予定など

センス・オブ・ワンダー・ナイト 2012のプレゼンテーションでは、『BREAKS』はクリア時のリプレイを簡単にYouTubeなどへアップロードしたりできる、というような発言をしていた。さらに今回、東京ロケテゲームショウの会場で配布されていたマンガつきパンフに目を通すと、BGMの変化を楽曲として保存、共有できるという記述がなされており、期待が膨らむ。

PCテクニカルプレビュー版をコミックマーケット83*2にて頒布予定とのこと。東京ロケテゲームショウで出展されていたのはタブレット版だったが、こちらで頒布されるのは、マウス操作のPC版である。対応OSはWin / Mac。開発エンジンのUnityのリリース状況次第では、Linuxでの対応予定もあるそうだ。

*2 コミックマーケット83の3日目(2012年12月31日)、東2ホールS64-a

マルチタッチも使うあの操作を、マウス操作にどのように落としこむかが気がかりなところだが、こうご期待といったところだろう。そういえば『Child of Eden』みたいなKinect操作とも相性がよさそうだ。

また、第16回文化庁メディア芸術祭に応募しているとのこと。

いまのところ、私はコミケへの行く予定はないのだが、どうにかして入手してプレイしたいと考えている。

情報は主に『BREAKS』公式サイトから発信されると思われる。公式サイトはフルパワーサイドアタックドットコムという非常にカッコいいドメインなので覚えやすいので、ぜひチェックされたし。

『BREAKS』公式サイト
http://fullpowersideattack.com/

レビュー『To the Moon』

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待ちに待った『To the Moon』のベータ版が到着したので、レビューを書いた。基本的に私は「魅力的だ、ほかの人にもプレイしてほしい!」と思ったゲームのレビューしか書こうと思わないのだが、今回はそれに反する形となる。

※本記事は、PLAYISMのレビュアー募集企画に参加して執筆している。参加にあたってはレビュー用のベータ版データをPLAYISMより提供いただいた。プレイを行ったのは日本語版『To the Moon』ベータなので、最終的な製品版と細部が異なる可能性があるが、その点は注意いただきたい
2012年12月13日追記
製品版で再プレイをし、改めてゲーム内容を確認した。これに合わせて本稿もベータ版準拠のものではなく、製品版準拠のものとなった。なお、製品版のプレイによって感想自体が変わったりはしておらず、加筆を行ったのは「ローカライズのクオリティについて」の部分のみとなる。

PLAYISM ニュース & ブログ - To The Moon 11月16日配信決定 & レビュワー募集
http://playism.blogspot.jp/2012/11/to-moon-1116.html

関連記事:
日本語版『To the Moon』の配信日決定、併せてレビュアーの募集開始
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/11/to-moon.html

概要

■ジャンル アドベンチャー
■開発 Freebird Games
■プラットフォーム Win
■リリース日 2012年11月16日(日本語版の配信日。オリジナル版の配信は2011年)
■価格 980円
■入手経路 PLAYISM(公式サイト、Steam、GOGでも購入できるが、日本語は載っていない模様)
■公式サイト http://freebirdgames.com/
■プレイバージョン 日本語版ベータ
■プレイ時間 4時間(公式サイトでは4時間半以内とされている)

『To the Moon』はRPGツクールXP(英語版はRPG Maker XP)にて作成されたアドベンチャーゲーム*1。製作はFreebird Gamesで、ストーリー、ディレクション、作曲、イラストなどを手がけるKan Gaoを中心としたチームである。、10数人という規模で開発を行なっており、チームとしての活動は5年を超えるそうだ。

*1 RPGと形容しているのが散見されるが、「戦闘を通じてキャラクターを育成しながら物語を進める」といった一般的なRPG像とは異なる。戦闘はないし(厳密には序盤にそれっぽいのがある)、キャラクターのパラメータ上昇や装備のカスタマイズはない。したがってアドベンチャーと形容するのが適切だと思う。

Freebird Gamesは『Dear Esther』が目指したような、ゲームを通じたインタラクティブなストーリー体験というものに主眼を置いている。そして今回紹介する『To the Moon』が彼らの代表作である。海外での評価は極めて高く、公式サイトに記載されている受賞歴も華々しいものとなっている。

  • GameSpot Best of 2011 - Special Achievements Best Story
  • Independent Game Festival - Excellence in Audio Finalist
  • Wired - The 20 Best Videogames of 2011
  • RPGFan - Best Indie RPG of 2011
  • IndieDB Indie of the Year Editors Choice - Best Singleplayer

英語版Wikipedia『To the Moon』*2には、続編の開発がアナウンスされているという記述があるが、公式サイトでそのような記述を見つけることはできなかった。

*2 英語版Wikipedia - To the Moon
http://en.wikipedia.org/wiki/To_the_Moon_(video_game)

今回、日本向けのローカライズとディストリビューションを行ったPLAYISMが、日本語化したいと手を挙げたのが2011年の11月 *3 だったので、およそ1年かかってのリリースとなる。

*3 公式フォーラム参照のこと
http://freebirdgames.com/forum/index.php?topic=3398.0

ちなみにSteam版は英語のほか、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語、韓国語でのプレイが可能。公式フォーラムによると上記言語のほか、スペイン語、ポーランド語、ロシア語、ポルトガル語、オランダ語、トルコ語の翻訳チームがいるようだ。

ゲーム内容

『To the Moon』はちょっとだけ先の未来を舞台とした物語だ。主人公はシグムントコーポレーションのエヴァとニールという男女のコンビ。2人の仕事は死の間際にある人の願いを叶えること。死を迎える直前の人の元を訪れ、その願いを仮想世界で再現するのが彼らの使命である。

本作では、「月に行きたい」という願いを託したまま、昏睡状態に陥った老人ジョニーの依頼を遂行するというのが目的となっている。ただし、依頼者の願いを叶えるためには、特殊な機器を使って彼らの記憶へと潜り込み、願いの源泉となったものを辿らなければいけない。
お互いに憎まれ口ばかり叩いているが、
傍目にはエヴァとニールはお似合いのコンビだ
2年前に妻を亡くしたジョニー。
彼自身は「月に行く」という自分の願いの理由を知らない
『To the Moon』では依頼人ジョニーの人生を逆行しなながら、彼が月を目指す理由はなんなのか、そしてどのような形で月に行くという願いを実現させるのか、といったものを読み解いていくストーリーになっている。

ゲームとしてはシンプルなアドベンチャーの形式を取る。マップを歩きまわってキーとなるアイテムを探し、それを使ってストーリーを進めるというお馴染みの形式だ。操作はキーボードやゲームパッドのほか、マウスでの操作にも対応している。
調べられるオブジェクトにカーソルを合わせると、アイコンが変化する
オートセーブのほかに、手動セーブも可能。手動セーブ枠は3つ。私は初回プレイ時、1時間ほどしたところでオブジェクトに触れられなくなるバグに遭遇してしまい、ゲームが進めなくなってしまったので再プレイを余儀なくされた。バグに遭遇したのは結局その1度だけだったが、安全を期すなら手動セーブが必要だろう。

プレイにかかる時間は3時間程度。難しい場面もないので、時間がかかっても4時間くらいだと思う。行動による場面の変化がないわけではないが、そういった場面自体が少なく、変化もとても小さいのであくまでファンがリプレイするとき向けといった印象である。このため、ゲームとしてのリプレイ性は著しく低い。

俺とお前と『To the Moon』

エヴァ&ニールコンビよろしく、私と『To the Moon』の間にある記憶をたどってみたいと思う。『To the Moon』では徐々に古い記憶へと遡っていくのだが、それではややこしいので時系列順に並べる。

『To the Moon』日本語化の話を耳にする:ストーリー重視の海外産ゲームを日本語で楽しめるよ! やったね、モズちゃん!
Indie Royaleに『To the Moon』が登場:日本語版のリリース予定があるから我慢だ、我慢
レビュアー募集開始:これで一足先に『To the Moon』を触れるぜ! でもほかの人とレビュアーが並ぶのは緊張するね(ドキドキ
プレイ開始:曲とドット絵はかなりいい感じだわ
数分後:ハイパービンタw
1時間後:バグで進めなくなってしまった……(ヽ´ω`)
再プレイ:ああ、そういう意味だったのね、これ(フムフム
再プレイから2時間くらい:さてさてどう幕を下ろすのかな(ワクワク
エンディング:終わった

結論から述べると、私の期待は大きく裏切られた。「あまりに期待が大きかったため」と片付けるのは早計なので、以下で詳しくその理由を述べたいと思う。

『To the Moon』に欠けていたもの

我々はありとあらゆる物語にクライマックスというものがあることを知っている。なぜならそれがエンターテイメントには欠かせない要素であり、幼い頃からドップリと浸かって慣れ親しんでしまっているからだ。言ってしまえばそれ以外の部分はクライマックスを盛り上げるためのお膳立てに過ぎないし、クライマックスが楽しくないコンテンツは大きく評価を下げてしまう。ゲームにおいてもラスボスが弱いことは、心情を盛り下げる要素として批判の対象となりやすい。

『To the Moon』を見てみよう。このゲームのラストシーンにはほとんど驚きがない。プレイしていれば「きっとそうなるだろうな」というシーンが出てきて終わる。

これは私が大好きな『ふしぎの城のヘレン』のレビューでも言及したが、驚きがないことは悪いことではない。いわゆるほとんど結果が見えている王道展開であっても、描写や演出が丁寧なら、ラストシーンに向けて盛り上がりが加速していけばそれで十分に楽しめるはずだ。

関連記事:
レビュー『ふしぎの城のヘレン』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/08/blog-post.html

しかし、『To the Moon』の結末部は明らかに惹きが弱い。物語の持つテンションが極めて平坦なのである。

本来、物語に臨む私たちの心情は結末付近で最高潮を迎える。加えて結末とその直前のシーンには超えていくべき大きな壁があるべきなのだ。そこを超えるときに、結末は何段階か上の強い心情を要求する。驚きであったり、感動であったり、その心情はさまざまだろう。物語を坂道に例えるなら、結末に向けてその傾斜は一層大きくなる必要があるのだ。なのに本作にはこれが欠けている。
灯台やウサギの折り紙といった印象的なピースはあるのに、
それらの輪郭がぼんやりとしたまま物語が終わってしまった
ジョニーの過去にはさまざまな出来事があり、それが現在を形作っているはずなのに、
回収部分の描かれ方が不十分だと思う
結末に至るまでの過程の部分は十分に丁寧に描かれていたと思う。けれども、最後の最後まで大きな盛り上がりが存在せず、温度を上げも下げもしないまま終わってしまった感がどうしても拭いきれなかった。プレイしているなかで結末に対する期待値を上げていったのに、最後に肩透かしを喰らってしまったというのが正直な感想である。

キャラクター、ビジュアル、音楽といったゲームの構成要素は秀でている

キャラクターたちに目を向けてみよう。主人公の2人は、2つの意味でいい仕事をしたと言えよう。1つはもちろん、ジョニーの夢の実現に向けて努力したこと。もう1つは魅力的なキャラクター像で物語を引っ張ったことだ。

エヴァは仕事のできるお姉さんだ。ただしちょっとだけ天然属性を持っている。私の好きなタイプだ。ニールはややひねくれた基本的には冴えない男だ。普段は面倒くさがりなのに、ときに自身の感情を優先してがんばってしまうライトノベルの主人公タイプだ(私はライトノベルを読まないので偏見かもしれない)。彼も嫌いじゃない。むしろ好きである。

そのほかのキャラクターはジョニーの妻リヴァーを除いては、キャラクターとしてのカラーが薄く、印象に残り難かった。このことはあまり問題だと思っていなかったのだが、ひょっとするとジョニー本人を含めた彼の人生を彩るキャラクター像が鮮やかさに欠けてしまっていたのも、物語を楽しめなかった一因なのかもしれない。
オレンジの髪が特徴のリヴァー
彼女とジョニーのあいだに何があったのかが本作のキーである
ビジュアルと音楽は非常によい。ほとんど文句のない出来栄えと言っていいだろう。全体的に楽曲はよいものが揃っているという印象で、最初に流れるメインテーマは特によい。

可もなく不可もないパズル

『To the Moon』は、依頼者ジョニーの記憶世界を遡って進んでいく。しかし、記憶の世界を逆行していくのは並大抵のことではなく、より深層にある記憶へと進むためには依頼者の許可、あるいは逆光のための鍵が必要となる。

この鍵となるのがメメント(memento)だ。簡単に言うと、記憶の底に眠っている思い出の品である。メメントを起動することで記憶を遡ることができるのだが、メメントにはバリアのようなものが張られており、以下の手順でバリアを外し、メメントを起動しなければならない。

  1. 特定のオブジェクトを調べて、メモリーリンクを5つ集める
  2. 集めたメモリーリンクを使って、バリアを解く
  3. メメントの準備をする
  4. メメントを起動する

メモリーリンクは、オブジェクトを調べる以外にも特定の場所に進入する、特定の人物と会話するといったことでも入手することができる。同時に複数個入手することもあり、単調さを極力避けようとした努力が垣間見える。

メメントの準備は、ピースを反転させてすべてのピースを表向きにするという簡単なものだ。適当にやっていてもそのうち解けると思う。
パズルは操作回数が記録されるが、
ゲームにどのような影響を及ぼすのかはわからなかった
メモリーリンク集め自体はさしたる労力ではないし、難易度も低い。世界観とも合致しており、ゲームにそれなりにアクセントを与えている。絶対に必要かと言えばノーかもしれないが、悪いものではない。なお、序盤はメメント起動イベントが多く、心配になる方もいるかもしれないので言っておくと、中盤から後半にかけてメメント起動イベントの登場頻度は低下する。

ローカライズのクオリティについて

プレイを予定している人のなかには、ローカライズの具合が気になっている人もいると思うので言及しておく。なお、私は英語をろくに読めないし、英語版の『To the Moon』も未プレイである。それに私がプレイしたのはベータ版であるということは忘れないでほしい。

翻訳はいい感じである。不自然な日本語はほぼ見当たらず、ビジュアルも相まって「日本のゲームです」と言われれば、疑う人も少ないだろう。ワッツの軽妙な言い回しもうまく日本語になっているという印象だ(もともと軽妙な言い回しなのかは知らないが)。

また、翻訳にあたっては部分的に内容が置き換わっているものがあるので、私が気づいた範囲で列挙しよう。

  • TRADIS → どこでもドア
  • Zordon → J.U.L.I.A.*4

*4 これはPLAYISMで配信されている同名のゲームから持ってきたものと思われる

ほかにもアニメやゲームの必殺技っぽい単語が登場したりと、日本でも馴染み深いものがいくつか出てくるが、これは英語版と変わりないようだ。
「英語のままでよかったのか?」と感じたシーンが1つ
技術的な問題なのかもしれないが
そのほか、下記のような点がローカライズ上の問題として挙げられるが、私がプレイしたのはベータ版であるため、製品版では修正されているものと期待したい。
2012年12月13日追記
私が問題として挙げていた点は、製品版では修正が施されている。

  • 選択肢が画面からはみ出ている(選択は可能。1箇所)
     → 修正されている。なお、英語版ではもともとはみ出ていたようだ
  • アイテムの説明がない。もしくは表示がおかしい(2箇所)
     → 英語版で確認したところ、あるアイテムはもともと説明がついていなかったようで私の勘違いである。また、表示されるテキストがおかしかった部分も修正されている
  • 日本語としてよくわからない(1箇所)
     → テキスト自体は変わっていないが、PLAYISMより回答をいただき、その意味を知ることができた。参考として回答をいただいた際のTwitter上でのやりとりのURLを貼っておく。

Twitter - PLAYISMアカウント
https://twitter.com/playismJP/status/278766762412089344

総括

海外における高い評価という(私の中で)鳴り物入りで登場した『To the Moon』。私がプレイを終えたとき、本作に抱いていた淡い夢は脆くも崩れ去った。

ビジュアルやオーディオといった素材は実に素晴らしい出来なのだ。しかし、要となる物語は平坦で、エンディングまでほとんど加速することなく終わってしまった。推進力を失ったスペースシャトルが月に到達しないように、物語は加速なしにクライマックスとエンディングには辿り着けないのである。

数多くのメディアは『To the Moon』を満ち足りた体験と賞賛したのかもしれないが、私にとってはやはりどこか欠けた内容のゲームであったと言わざるを得ない。夜空に浮かぶ三日月は美しいだろう。ただ、物語はどこか欠けているものよりも満ちているもののほうが、豊かな体験をもたらしてくれるのだ。

私がニールと出会うことがあれば、『To the Moon』をより優れた作品にしてほしいと願うところだが、本作はそこまで悪い作品ではない。単に私の期待値には満たなかったというだけだ。それにゲームに限定したとしても死に際に願うなら、もっと重要な作品がたくさんあるのだ。
2012年11月13日追記
まったくの余談であるが、スペースシャトルでは月に行けないらしい。

日本語版『To the Moon』の購入について

購入はPLAYISMより可能で、2012年11月16日16時までに購入すると、以下の特典がつく。

  • 予約特典として10%OFFの882円で購入可能
  • 『To the Moon』オリジナルサウンドトラック
ちなみに楽曲自体は、ogg形式でゲームファイルに普通に同梱されているが、オリジナルサウンドトラックのほうが音質がいいのだとは思う。


PLAYISM - 『To the Moon』ストアページ
http://www.playism.jp/games/tothemoon/

2012年11月13日追記
謝辞が抜けていたので追記。

まずはじめに。正式なリリースに先んじてレビューを書く機会を与えてくれたこと、そして人気作でありながら言語が大きな壁として立ちはだかっていた『To the Moon』の日本語版をリリースしてくれたことに対し、PLAYISMには心からお礼を申し上げたい。

本当にありがとうございました。

今回のレビュアー募集企画自体もおもしろい試みで、同時期にさまざまな視点のレビューが並ぶというのも刺激的な体験であった。今後も同様の企画を見つけたらぜひ参加してみたいと思うし、ないなら自分からやってみたいと思う。

『LOOT』デザイナーインタビュー

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過去の記事からだいぶ日があいてしまったが、『LOOT』のデザインを担当した、もの氏へのインタビューを公開する。『LOOT』の物語は11月に起こった設定なので、季節的にもプレイするのにちょうどよいタイミングではないかと思う。

関連記事:
レビュー『LOOT』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/09/loot.html
『LOOT』製作者インタビュー 前編
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/09/loot_15.html
『LOOT』製作者インタビュー 後編
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/09/loot_9288.html


はじめに

――自己紹介をお願いします。
もの氏
もの ものと申します。絵を描くことは小さいころから大好きでしたが、イラストを描き始めたのは10年ほど前です。主にオリジナルキャラクターを描いており、あまり二次創作はしていません。たまに描きます。夜麻みゆき先生の『刻の大地』や、きゆづきさとこ先生の「棺担ぎのクロ。」など、
ファンタジー漫画が大好物です。

――『LOOT』に関わることになったきっかけは?
もの とあるボカロPさんが、Janusさん*1に私を紹介してくださったことがきっかけです。私のホームページからイラストを確認していただき、試しにキャラクターを1人、ミリヤを描かせていただいたところ「ぜひこの絵柄で描いてほしい」ということだったので、ご依頼を受けさせていただきました。このときはゲームをプレイして描いたのではなく、『君のためなら死ねる』で見られるようなキャラクターのシルエットが提示されて「このようなイメージで」という風に教えていただいて描くという形でした。

*1 『LOOT』の企画者。

キャラクターデザインに関して

――ものさんご自身は獣耳のついたのキャラクターがお好きなようですが、『LOOT』のキャラクターデザインにあたって不安だったことはありますか。
もの 服装や性格までCREOさん*2からいろいろ指定してくださいましたので、キャラクターデザインにおいて困ったことは特にありませんでした。

*2 『LOOT』を手がけた同人サークル

――デザインにあたっていちばん注意したことはなんでしょうか。
もの やはりキャラクターの特徴と差異がないように、ということでした。体験版のテキストをみながら「このキャラクターならどんな顔をするだろうか」と考えながら描きました。
―好きなキャラクターをお教えください。
もの デザインとして気に入っているのは柊由美です。憂いを帯びたクールなキャラクターとしてしっかりまとまったように思います。キャラクターとしては……悩みますが、特に中島次郎とさつきの姉弟が好きですね。中二展開が大好きな私としてはこの2人はおいしいキャラクターでした。
――デザインにいちばん苦労したキャラクターは誰でしょうか?
もの いちばん苦労したのは白石さんでしょうか。普段から若いキャラクターばかり描いているので、単純におじさまを描くのが難しかったです。ただ、CREOさんから詳しく情報をいただいたので、基本的には皆すんなり描けたという印象です。
――途中でデザインが大きく変化したキャラクターはいますか?
もの 描きはじめる前に、イメージとしてシルエットのみのキャラクター画像をいただいたのですが、そのシルエットを参考にしたためなのか、大きく変更のあるキャラクターはいませんでした。

参考資料として渡されたという男性陣のキャラクターシルエット
男性陣のラフスケッチ
同様に女性陣のキャラクターシルエット
女性陣のラフスケッチ

――さつきの帽子や一光のスーツといった各キャラクターのアイコンは、CREOさんからの指定でしょうか。
もの はい。スーツも帽子も当初からそのような指定がありましたので、そのまま描いています。一光のスーツは、ミリヤの「一光くんはなんでいつもスーツなの?」というような台詞がありましたし、塾講師であるため、いつもスーツなのだと解釈しています。そのほかにも、由美はトレンチコートであるとか中原教授は眼鏡をかけているなど、キャラクターの特徴にもなる服装の指定は事細かにされていました。一光の講師の仕事が休みであるなどのイベントがあったら、私服の一光も描いていたかもしれませんね。
Twitter上でもの氏があげていた
制服バージョンのさつき
同じくミリヤ

『LOOT』をプレイしてみて

――『LOOT』をプレイしてみての感想はいかがでしょうか。
もの 私は普段ノベルゲームや推理ものの本を読むなどという経験が少ないので、とても新鮮でした。会話の文字と盗聴している側の文字を読んでいくのは、はじめは少し大変ですが、特殊能力があるというある種の快感(?)みたいなものを感じられると思います。イラストを描いていくにあたって誰が犯人であるかは前もってわかっていたのですが、それでも次々と起こる事件、散りばめられた伏線と、飽きさせないゲームだなと感じました。何も知らずにプレイしていたらおそらく犯人を間違えたと思います(笑)
――『LOOT』に出てくる能力を1つだけ得られるとしたら、何を選びますか。
もの 私は「概略」が欲しいです。他人のデータを知ることができるのはおもしろそうですし、漫画のネタにもなります(笑)得られた情報からだいたいの考えそうなこともわかるでしょうし、便利な能力だと思います。それが相手に知られたら怖がられそうではありますが(笑)

最後に

――インタビューを読んでいる方にメッセージをお願いします。
もの 宣伝になってしまいますが、12月の冬コミに応募しています*3。10名ほどのメンバーでケモミミ合同誌『mfmf3(もふもふ3)』を製作中です。またホームページのほうでもイラストや漫画を載せていますのでぜひ。

*3 コミックマーケット83の3日目(2012年12月31日)、西-み41a ねこかんEATERSにて頒布予定

もの氏のサイト「猫小屋」
http://monochro.uunyan.com/

Steam版『Thomas Was Alone』のリリースによせて

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『Thomas Was Alone』という2Dプラットフォームアクションがある。今まで公式サイトとDesuraでの販売だったのが、2012年11月13日にSteamでも購入できるようになった。これに伴って、公式サイトですでに購入していたユーザーには『Thomas Was Alone』のSteamキーが発行。メールにてSteamキーが届けられている。

Steamでのリリースに際して、既存の購入者向けにSteamキーが発行されるというのは珍しいことではないのだが、、そのメールに添えられた一文がとても印象的だったので紹介したいと思う。

開発者が我々に託した願い

以下が開発者から送られてきたメールの全文である。原文は英語で、日本語は私がつけたもの。誤解や誤認があるかもしれないが、おおよそのニュアンス(特に最後の段落)は伝わるかと思う。
<原文>

Hi [購入者の名前]!

I'd like to personally thank you for being an early adopter, for buying Thomas at a stage, well, let's be honest, you had no reason to believe it would be any good.

And you told people! You went out and spread the word. And because of you, and people like you, yesterday I was able to launch the game on Steam. You rock. And I'd like to say thank you by handing you a steam key...

[Steamキー]

Enjoy. There are achievements, and controller support. And if you do enjoy, instead of giving me any more of your hard earned money, go find another little game and give it a chance. People like you keep us going.

Thanks,

Mike


<訳文>
やぁ、[購入者の名前]!

個人的に早期購入者の存在には感謝しているんだ、だって正直なところ、Thomasを買おうとしたときに「このゲームはきっといいものだ」って信ずるに値する理由はなかったはずだから。

それでも(『Thomas Was Alone』のことを)みんなに伝えてくれたよね! 自分の言葉で拡散してくれた。そんなあなたと、あなたみたいなたくさんの人たちのおかげで、昨日、僕のゲームはSteamでのリリースにこぎつけたよ。感謝してもしきれない。だからSteamキーを送ることで、僕の感謝の印としたいんだ。

[Steamキー]

ぜひ楽しんでほしいな。実績と、コントローラでの操作をサポートしたよ。それとゲームを満喫したら、あなたが頑張って稼いだお金を、僕の代わりにほかのところで使ってほしいんだ。小さなゲームを見つけて、彼らにもチャンスを与えてほしい。あなたのような人たちのおかげで、僕たちは先に進むことができるから。

本当にありがとう。

Mike
以上である。こういう文章をさらりと書けるのが素敵だな、と思ったので紹介した。

余談になるが、『Thomas Was Alone』のエンドクレジットには以下のような記述(非ネタバレ)もあり、ユーザーを非常に大切にしているように感じた。

  • EVERYONE WHO I MISSED OFF THIS LIST(このリストに載らなかったすべての人たち*1
  • EVERYONE WHO CHEERS ME ON TWITTER(Twitterで僕を応援してくれたすべての人たち)

*1 「miss off」の意味がはっきりととれなかったのだが、おおよそこういう意味だと思う

『Thomas Was Alone』の紹介

せっかくなので本作のことを簡単に紹介しておく。

『Thomas Was Alone』は、イギリスはロンドンのゲーム開発者Mike Bithellが手がけた2Dアクション。あまり詳しくは知らないのだが、もともと24時間で製作されたほぼ同名のゲーム『Thomas was alone.』が2010年に公開されており、その後、Indiegogoでの出資者募集(ファンディング自体は失敗している)を経て*2、製品版のリリースとなったようだ。

*2 Indiegogo - 『Thomas Was Alone』のプロジェクトページ
http://www.indiegogo.com/thomaswasalone

プロトタイプにあたる『Thomas was alone.』は、Kongregateを始めとしたブラウザゲームのサイトでプレイできる。また、公式サイトでは製品版である『Thomas Was Alone』のデモをダウンロード可能。

Kongregate - 『Thomas was alone.』
http://www.kongregate.com/games/mikebithell/thomas-was-alone

『Thomas Was Alone』公式サイト
http://www.thomaswasalone.com/

異なった特性を持つ複数のキャラクターを切り替えながらパズルを解き、すべてのキャラクターをゴールへと導けばステージクリアとなる。

操作キャラクターが単なる長方形や四角形で表示されるという独特のビジュアルスタイル、ゲーム中に流れる詩的な文章とナレーションなど、想像力をかきたてるようなデザインが施されており、開発者Mikeの強い個性を感じさせる1本となっている。シックなBGMもかなりよい。
黒で塗られた地形と落ち着いた風合いの背景色とのコントラストが美しい
HUDらしいものはほぼなく、すっきりとした画面構成
10のキャラクターが登場し、各キャラクターの持つ特徴は以下のようなものがある。

  • ジャンプ力が高い
  • 水に浮くことができる
  • 2段ジャンプできる
  • 重力が反転している
主人公たるThomasは、ベーシックなキャラクターで特別な能力は持たない
100のステージが存在しているものの、1ステージは短くボリュームいっぱいのゲームではない。たしか3時間くらいでクリアできたと記憶している。難易度も低めで、特にシビアなアクションを必要とするゲームではない。パズル自体もあまり複雑なものではない。

このため、アクションゲーム、パズルゲームとしての味わいはあっさりめである。雰囲気とストーリーを楽しむためのゲームと割り切ったほうが幸せだろう。そういう意味ではテキストの日本語化を望みたいタイトルと言える。私はクリア済みなのだが、テキスト量にやや圧倒されつつプレイしてしまったので、日本語化を強く希望したいタイトルである。

おまけ『Thomas Was Alone』の舞台裏

『Thomas Was Alone』の開発風景を撮った動画が公開されているので、ぜひ観てほしい。
※YouTubeの動画情報に記載されているとおり、動画は4月1日に発表されたもので、エイプリルフールのネタ動画です

『BREAKS』コミケ83直前インタビュー

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センス・オブ・ワンダー・ナイト 2012、東京ロケテゲームショウと情報を追い続けていた『BREAKS』の開発者にインタビューをすることができた。

開発に至った経緯や、コミックマーケット83で頒布予定のテクニカルプレビュー版の話も詰め込んでもらって、『BREAKS』に対する期待が膨らむばかりだったインタビューをお届けしたい。

関連記事
『BREAKS』の感想 東京ロケテゲームショウver
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/11/breaks-ver.html
センス・オブ・ワンダー・ナイト 2012 雑感 - 『BREAKS』の記事
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/09/2012.html#sown2012_breaks

はじめに

なんも氏
――『BREAKS』とご自身について簡単に紹介をお願いします。
なんも FullPowerSideAttack.com代表を務めております。なんもと申します。『BREAKS』はユーザー操作によって、楽曲そのものを変化させることを目的とした創発系実験的音楽ゲームになります。ステージをクリアすることで変化させた楽曲を音声ファイルとして書き出すことも可能になっています。楽曲提供に佐野電磁氏*1を迎え、コミックマーケット83にてテクニカルプレビュー版の頒布を予定しています。

*1 ナムコ(とバンダイナムコゲームス)にてサウンドを手がけていた作曲家。『鉄拳』や『リッジレーサー』シリーズなどで作曲を行なっていた。ニンテンドーDSソフト『KORG DS-10』、『KORG M01』の開発に携わっていることでも知られる。最近ではPlayStation Vita用ソフト『orgarhythm』にもDLCとして楽曲を提供した。

開発の根底にあるもの

――『BREAKS』開発のきっかけはなんでしょうか。
なんも Kinect BeatWheel*2というKinectを利用してブレークビーツを切り替える演奏システムがあり、この発想をベースに、それを1曲単位に拡張して演奏とゲームを両立できないかというのがきっかけになります。

*2 音楽系の開発イベントMusic Hack Day Boston 2011にて発表された作品。説明するより動画を見たほうが早い。参考として日本語での記事も貼っておく。
Engadget 日本版 - 動画:Kinect でドラムループを演奏するKinect BeatWheel
http://japanese.engadget.com/2011/11/14/kinect-kinect-beatwheel/

――『BREAKS』も前作『Taplib』*3も演奏がひとつのテーマになっているようで、インタラクティブミュージックへのこだわりがあるとお見受けします。開発に際して特にこだわっている部分があればお教えください。
なんも 「こだわり」という点で言うと、演奏にこだわっているというよりは、より汎用的な「ゲームから生み出す、あるいは創発する」ことにこだわっています。そのきっかけは2009年のCEDECで富野由悠季さんが「ゲームは人類生産性を下げる悪である」*4という趣旨の基調講演をされていて、それに対する一種のアプローチとして現在まで制作を続けています。創発という意味ではさまざまなアイデアやアプローチがありますが、自分自身が学生時代に音声信号に関する研究やDTMを行なっていたこと、CGやAIなどの分野はあらゆる試みが多数あるのに、音声に関してはそのような試みが当時ほとんど見られなかったことが影響していると思います。それと音ゲーのジャンル自体に行き詰まりを感じていたことも影響していて、「演奏」というところに現在は落ち着いています。

*3 『BREAKS』の前になんも氏が開発した作品。センス・オブ・ワンダー・ナイト 2011(SOWN 2011)でプレゼンしており、なんも氏は同イベントで2年連続でプレゼンしている。
*4 CEDEC 2009での富野由悠季氏の発言は次の通り。「ゲームは,悪です。まず,ゲームは日常生活を支えるものではなく,エネルギーは消費される一方です。」。引用元は4Gamer。

4Gamer - [CEDEC 2009]「ガンダムの父」富野 由悠季氏が若いクリエイター達を挑発する基調講演,「慣れたら死ぬぞ」の中身とは?
http://www.4gamer.net/games/095/G009544/20090902047/

――音ゲーに関する言及がありましたが、『BREAKS』は音ゲーのようにスコアに重点をおいたゲームデザインなのでしょうか。
なんも ゲームデザインとしては、現状スコアを重視しています。ですが、従来の音ゲーと異なり音楽の出来がスコアと比例しません。演奏システムとして従来の音ゲーを捉えたとき、熟練度が高ければ高いほど演奏として同一になっていく点が問題だと感じていたので、演奏部分の自由度を高めたうえで最低限演奏的になるようにシステム側で補正する形にしています。

開発に関する諸問題、開発初期のものからの変更点について

――『BREAKS』の開発について苦労していたり、課題となっている部分があれば教えてください。
なんも 『BREAKS』の前身である『Taplib』は、「もともと考えていたゲームシステムに演奏システムを付加する」形で制作を進めました。対してBREAKSは「演奏システムを充足させるためにゲームシステムを付加する」形で制作を進めています。そのため、本質的には「ゲームシステムとしてはなんでもいい」ので、最終的にはゲームとは別の何かになる可能性が常にあります。『BREAKS』の次があれば、ゲームシステムと演奏システムを最初から融合させた形にできればなあ、と考えています。
――初期のプロトタイプ版動画を観ると、Short Delay、Reverb、Distortionと3つのサウンドエフェクトが挙げられています。これは現在も同じでしょうか。
なんも サウンドエフェクトについては、いくつか制作上の都合がありました。まずUnity Proとは異なり、当初『BREAKS』の開発を行なっていたUnity BasicではUnity付属のサウンドエフェクト類が使えませんでした。ただし、Unity Basicであっても、独自にサウンドエフェクトを実装することが可能だったので、Short DelayとDistortionについては独自に実装して問題解決を図りました。一方で大きな問題となったのがReverbです。Reverbは、Reverb Zoneという機能を利用したのですが、このエフェクトのかかった音声は録音できないという致命的な問題が生じてしまいました。最初はShort Delayも同様の問題を抱えており、結果、『BREAKS』はUnity Proなしでは完成しないプロジェクトになってしまいました。しかし、SOWN 2012でのプレゼンテーター向けにUnity Technologies JapanよりUnity Proが提供されたため、現在はUnity Proによる開発へと移行しており、それらのトラブルは回避することができました。コミックマーケット83で頒布予定のPCテクニカルプレビュー版では、Unity付属のサウンドエフェクトに差し替えるのみで、エフェクトの組み合わせは同じになる予定です。
――プロトタイプ版動画では、操作するボールが複数あったようですが、ここも変わった点でしょうか。
なんも それはプロトタイプ版より前から大きく変わった点です。当初はピンボールやブロック崩し、というか『アルカノイド』ですね。あれと同じようにボールが増えていく仕組みを考えていました。しかし、ボールの位置で左右ボリュームの調整を行う仕様を思いついたので、そこからボールが1つだけになりました。

『BREAKS』テクニカルプレビュー版について

――コミックマーケットでの頒布予定についてお聞かせください。
なんも 『BREAKS PC Technical Preview』は Win / Mac / Linuxに対応……予定です。コミックマーケット83の3日目、東 S-46a FullPowerSideAttack.comにて500円で頒布予定となっています。なお、現時点で委託販売の計画はありません。
――もともとタッチデバイスを想定していた『BREAKS』の操作ですが、テクニカルプレビュー版はPCでのプレイになります。操作周りはどのようなものになっているのでしょうか。
なんも 基本的にはマウスの左クリックドラッグで移動させる形になり、マウス左ドラッグでポインタの位置に向けてボールを加速、マウス右クリックでブレーキ、マウスホイールで加速度の変更となっています。これに合わせて演奏システムにも手を入れています。また、それ以外にも曲の長さ、つまりステージの長さの調整、スコアシステムの変更にエフェクト調整など、東京ロケテゲームショウでのフィードバックによる変更を多数取り込んでいます。
――楽曲提供は佐野電磁さんの『Gradation』からということですが、どういった背景からこのアルバムが選択されたのでしょうか。
なんも 佐野さんとは、SOWN 2011での『Taplib』の発表後にご挨拶させていただく機会があり、その伝手で『BREAKS』のシステムに関してご理解を頂き、『Gradation』の楽曲利用をお願いした形になります。実績やクオリティは言うまでもないところですが、『Gradation』は楽曲の幅――ジャンルが広いことと、『BREAKS』のシステム上の制約から、すべての曲のBPMが一定といったところも選定理由として挙げられるかと思います。
――収録曲はどのようになるのでしょうか。
なんも 東京ロケテゲームショウと同じで、収録曲は佐野電磁さんのアルバム『Gradation』より、Electric Prayer、Leaning Tower、Jz、Hand Your Handの4曲を収録します。
――技術的な問題に加え、著作権的な問題もはらむのだと思いますが、将来的にはプレイヤーの好きな楽曲でのプレイに対応することも可能なのでしょうか。
なんも 現在のゲームシステム上、ゲームの進行は全てBPMをベースにして制御されています。そのため、曲のBPMを正確に推定することができれば好きな曲でのプレイが可能な見込みです。著作権上の問題という意味では、クリア後のWAV出力で出力された音声ファイルの取り扱いが問題になりますが、コミックマーケット83で頒布するバージョンでは、ガイドラインを設定しそれに沿った運用となる予定です。

■最後に

――インタビューを読んでいる方にメッセージをお願いします。
なんも SOWN 2012で観覧、後日動画を視聴した方、東京ロケテゲームショウにてプレイ、アンケートにご協力いただいた方、誠にありがとうございます。東京ロケテゲームショウでは想像以上に「SOWNで見た」という方が多く、非常に驚きました。『BREAKS』はそのコンセプトがどうしても説明しにくく、触ってもらわないとわからない面もあります。有償での頒布ではありますが、ご興味ご関心ございましたら、コミックマーケット83のS-46a FullPowerSideAttack.comまでお足をお運びいただければと思います。

なんも氏のサイト「FullPowerSideAttack.com」
http://fullpowersideattack.com/
なんも氏のTwitterアカウント
https://twitter.com/nanimosa

『To the Moon』は、本当に「感動しなかった」で終わらせていいゲームか?

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『To the Moon』のレビュアー企画、個人的には大変楽しませてもらった。同じゲームの作品が一同に介するというのはやりがいもあり、なかなかどうして個性も出てくるもので、レビュアー毎に異なったアプローチがあっておもしろかった。

私は例のごとく、乾いた感じのレビューを投稿したわけだが、ほかの企画参加者のレビューを読んで思うことがあったり、改めてプレイをしてみて『To the Moon』自体に思うところがあったりするので、こうして筆を執った次第である。

レビュー記事の紹介

PLAYISMの企画に参加していたレビューを紹介しておこう(公開済みのもののみ)。

9bit - 『To the Moon』は琴線を殴る
http://9bit.99ing.net/Entry/18/

Miyaoka Note -To the Moon*1
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:64_iMNwPydQJ:www.t-p.jp/miyaoka/archives/4532

*1 サイトにつながらなくなってしまっているので、GoogleキャッシュのURLを貼っている。

くまにもすすめたい - 番外編
http://kumasusume.blog.fc2.com/blog-entry-15.html

ゲーム日記のようなもの - 「月に行きたい」To The Moon 感想&紹介
http://hahahagmf.exblog.jp/18156467/

Yata Blog - レビュー:海外インディーPRG「To the Moon」 - RPGの形をしたビジュアルノベル
http://etwas.wolfish.org/blog/p2012111601/

Game*Spark - 短編映画のような切ない物語『To The Moon』日本語版プレイレポ
http://gs.inside-games.jp/news/370/37041.html

毎日ムキムキ - 『To the Moon』は、本当に「感動した」で終わらせていいゲームなのか?*2
http://hakotossdm.blog42.fc2.com/blog-entry-1486.html

*2 本稿のタイトルは、この毎日ムキムキのレビュータイトルを露骨に真似たものだ。

AstralGate - レビュー 『To the Moon』 「『あの頃』へ」
http://astral-gate.com/indiegamereview/3720/

旧世紀網膜博物館 - 展覧会/To The Moon
http://burikino.blogspot.jp/2012/11/to-moon.html

個人的には、以下の3つが特に気に入っている(敬称略)。

  • ゲームの良し悪しで終わらせずに、読み手とプレイヤーに問いかけた、毎日ムキムキ(コメント欄含む) 
  • 読み応えと重厚な味わいがあり、後半の畳み掛けが心地よい、旧世紀網膜博物館
  • ゲーム体験という部分にフォーカスした視点がおもしろいAstralGate

なお、『To the Moon』のレビューで私がいちばん気に入っているのは、次のレビューである。

The Great Underground Home Page- To The Moon: レビュー
http://clavis.info/wiki/to_the_moon_review

淀川長治の口ぶりというのは人を選ぶかもしれないが、ゲーム視点とストーリーを絡めた分析は必読だろう。物語を改めて俯瞰できることもあって、クリア済みのプレイヤーには特にオススメである。

手前味噌ながら、私の書いたレビューも一応貼っておこう。

レビュー『To the Moon』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/11/to-moon_12.html

『To the Moon』はゲームであったか

問いである。

我々ゲームを楽しむ者は、「これはゲームであるか」だとか、「これはゲームである必要があるか」という疑問をしばしば胸の内に抱く。

ひょっとしたらそれは孤島を放浪するゲームをプレイしたときかもしれない。あるいはそれをパロディ化してFuck This Jamで生まれたゲームかもしれない。交通事故にあった女、墓場を彷徨う老婆、愛しき人を待ち続ける男などが登場するアクの強いゲームたちかもしれない。人によってはノベルゲーやビジュアルノベルと呼ばれるゲーム群を、「あれはゲームなのだろうか」と疑問を呈しているのかもしれない。
一人の男が孤島をゆく、『Dear Esther』
シャチが空を漂う『Dear Esther』パロディ作品、『Dear Esteban』
事故にあった女性の見る奇妙な夢を描いた『TRAUMA』
墓場と老婆が織りなす奇っ怪なモノトーン劇『The Graveyard』
待ち人の来ぬ侘しさたるや如何に。『Dinner Date』
さまざまな要素をミックスアップして構築される現代のゲームにおいて、アドベンチャーという言葉にどれほどの意味があるのかはわからない。だがクラシカルな意味でのアドベンチャー、純アドベンチャーとでも形容したくなるようなゲーム群は、たびたびこの問題と直面してきたのではないか、と想像する。

言わば、かのゲームたちが生まれながらにして持った宿命なのだ。

いずれにしてもゲームを楽しむからには、我々の割とクリティカルな側面を突いてくる問題であるのは間違いないだろう。『To the Moon』もそういったゲームのひとつだったように思う。本作のレビューでも、少なくない数のレビュアーがこの部分について言及している。
伝統的なRPG形式かつドット絵による物語表現だからこそ、絶妙ななにかが成立してるんじゃないかなと思う。その様式に対して特定の受容モードをとれるかとれないかで、もしかしたらけっこう評価が分かれるのかもしれない。
- 9bit
まず最初に断っておきます。
これはゲームではない。RPGの形をしたビジュアルノベルと言えるだろう。
- Yata Blog
 TTMはゲームの形態を取った。
 マウスやカーソルによって移動をさせ、ゲームらしいクリックによるアイテム集めやパズル要素を組み込んだ。だが、それらは無くても良かった。無いほうが、良かった。
 ゲームでなくて、良かった。
 ではFreebirdがゲームの形でTTMを作り出したのは失敗だったのだろうか?
 小説や映画の形で世に送り出すべきだったのだろうか?
 いや、そうではない。
 TTMはゲームでなくて良かった。だがゲーム以外の形で世に出すべきだったかというと、そうとはいえない。なぜなら、ゲームは他の媒体には無い長所があるからだ。正確には、現行ゲームとされている媒体では、か。 
(中略)
 TTMはゲームでなくて良かった。だが、きっとゲーム以外でこの作品を世に送り出すことはできなかっただろう。
 でなくては、映像と、文章と、そして素晴らしい音楽と、あらゆる感覚器官を通して訴えかけることはできなかっただろう。
 だから、ゲームという媒体でTTMが発売されたのは、きっと正解なのだ。
 
 そう、ゲームで良かった。
 だが、ゲームらしくある必要はなかったのだ。
- 旧世紀網膜博物館
『TotheMoon』は、大人の鑑賞に堪えるレベルの作品なのか。
安っぽい「お涙頂戴」ではないのか。
仮にストーリーが良いとしても、それがゲームである必然性はあったのか。
(中略)
本作が「ゲームでなければ成し得なかった表現である」と言い切るのに十分な根拠を与えている、
というのが、私の見解です。
- ASTRAL GATE
私自身はゲームであるかどうかにはあまりこだわらない(ようにしている)。がしかし、あえて言うならやはり『To the Moon』はゲームであった。

一方で「『To the Moon』は映画や小説で嗜むべきストーリーではない」とも思っている。というのは「これが既存の形をとった映画や小説だったのなら、ひどく陳腐な物語に感じられるのではないか」と素朴に感じたからだ。

これを「ゲームが提供するストーリーへの宣戦布告」と受け取られても仕方なかろう。私が触れたゲームは必ずしも多くはないし、特にストーリー性を重視するゲームに限ればなおのことであるから、発言に説得力がないのは重々承知である。

それでもまだ映画に小説、演劇といったものに比べれば、大衆が手にするゲームのストーリーまだまだ未熟ではないかと思う。それはゲームにストーリーが必要とされていないのではなく、単に未踏の地であることの証左なのだ。換言すれば、大きな可能性が眠っているはずなのである。

さて話が逸れた。

私が「『To the Moon』はゲームであった」としたのは単に様式を見ただけにすぎない。90年代後半のスーパーファミコン世代を彷彿とさせるビジュアルや、特段珍奇ではないアドベンチャー然としたシステムを見ただけのことだ。「ゲームである必要があったか」という点においても大きく頷ける内容ではないと思う(そういえば映画『インセプション』のようなゲーム内容だったら、という発言をいくつか見かけた。それならゲームであることが必然性を帯びてくるような気がする)。

が「ゲームであるかどうか」なんて大切だろうか。私は今のところ、この論議にあまり意義を見出せていない。以下のような具合である。
髪を。
そっと指で梳きながら。
ニヤリと、唇を歪めて見せた。
「そんなことはどうでもいい」

私の心情から乖離していった結末

前置きが長くなったが、『To the Moon』のもたらした体験とそこでプレイヤーが得た感動、そして両者と私の間に生じた齟齬について考えてみると、私がゲーム中にミスリードされていたことに気がつく。

作中では「結果よりも過程が大事なんだ」という旨の台詞が時折出てくる。これは最初にエヴァが言い出し、のちにニールも共感を覚えるようになっていく。当然プレイヤーである私も、同じように思っていた(プレイヤーが操作するのも、ゲームが進むにつれてエヴァよりニールが中心になっていく印象がある)。
序盤より、エヴァの台詞
終盤より、ニールの台詞
したがって物語を読み進めるうちに、エンディングは当然この台詞に沿ったものになると思い込んでいた。夫婦がわかり合えないまま、妻が先立つという事実は変わらない。だからその結果は事実として受け取ろう。でもそこに至るまでの道のりはなんとかしたい。「きっと白衣の2人がなんとかしてくれるものだ」と私は信じて疑わなかった。

まずは「そこを裏切られた」という想いが強いのだ。もっともこれだけでは『To the Moon』に対して感動できないという結論を持ち出すには弱すぎるだろう。次節以降ではもう少し踏み入って考えてみたい。

『To the Moon』の要点

はじめに『To the Moon』のストーリーについて、重要な部分をピックアップしてまとめておこう。なお、私自身の解釈(という名の思い込み)も混じっているので注意してほしい。

※以降の内容は『To the Moon』の完全なネタバレが含まれているため、プレイ予定のある方や未クリアの方はクリアしてから読むのを推奨します。

  • ジョニーは、双子の兄のジョーイを事故で失っている。結果、事故を起こした母からは兄の名「ジョーイ」で呼ばれ、元々好きでなかったオリーブのピクルスやアニモーフ(これらは兄ジョーイの好きな物である)を好きになるほど、ジョニーの人物像は歪んでしまった。つまるところ、ジョニーの半分は、嘘で形作られたジョーイの幻影なのである。しかも皮肉なことにジョニー自身がこのことを意識することはない
  • ジョニーとリヴァーは幼い頃に1度会っており、そのときに「来年また会おう」という約束を残している。そこで「もしも迷ってしまったら」と訊ねたジョニーに、リヴァーは「月で会おう」と答えている。これこそが本作の要ともいうべき事柄。ジョニーが理由もわからないまま月を目指したのはこのため
  • ジョニーは、事故で兄弟をなくした衝撃でそれより前の記憶を失っており、小さい頃にリヴァーと出会ったことも忘れてしまっている。それに彼女に惹かれたのは、単に物珍しい人をそばに置くことで自分が特別な存在になれると思ったからで、実際のところ(当初は)特別な思い入れはない
  • ジョニーがリヴァーに惹かれた理由を聞かされたリヴァーは、突如、折り紙を折り始める。折り紙は最初に2人が出会ったとき、星空に思い描いたウサギ。最終的にはお腹の部分が黄色いウサギを折る。これは2人が星空に作ったウサギをより直接的に表現したもの。髪を切ったのも、ジョニーに過去の自分を思い出してほしいからであろう
  • 最終的にはジョニーとリヴァーが付き合い始めることになった部分の記憶を改変することで(ジョニーが告白できないようにした)、ジョニーを月に行かせることに成功する
  • それでもリヴァーは、ジョニーの新たに作られた記憶の世界に現れる(これはエヴァの賭けであった)。そしてジョニーの願いどおり、2人は月で(宇宙で)再会を果たす

なかでも重要なのは次の2点だろう。

  • ジョニーが月に行きたいのは、本人は意識していないがリヴァーに会いたいがため
  • リヴァーが折り紙を折っているのは、幼い頃の約束を忘れてしまっているジョニーにメッセージを送っているから

2人はすれ違ったまま、リヴァーは死を迎えてしまった。それにリヴァーが折り続けていた折り紙の意図をジョニーは理解できなかった(「兄弟を失った事故」によってジョニーの記憶が失われているからである。ただしリヴァーがこのことを知るよしもない)。しかし、ジョニーもやはり心のどこかでは彼女のメッセージを受け取っていて、結果として「月に行きたい」という願いだけが現実のものとして現れた。

ここで話を先へと進めるまえに、Twitterで以前見かけたストーリーに関する話を紹介しておこう。『To the Moon』のストーリーに対しても同じように考えることができるはずだ。
余談であるが、図らずも「白衣の男女コンビが自分たちのそばにある小さな世界を変えるために、大方同じながら微妙に細部が異なる世界を行き来する」という物語は、『STEINS; GATE』と『To the Moon』との間で奇妙な一致を見せる。
お互いを仲良く罵る様も、エヴァとニールにどこか似ている『STEINS; GATE』のコンビ
先のツイートに従えば『STEINS; GATE』で泣いたのに、『To the Moon』で泣かなかった私は、後者で感情の導線をうまく読み解けなかった(あるいは作品がそれを許さなかった)ことが原因なのではないか、と思う。

その願いは果たされたのか

物語を読むとき、私は主たる登場人物の幸せを願わずにはいられない。

最愛の人がポッと出のよくわからない三下に撃ち殺されて、白い鳩が飛び立つような描写があっても構わないし、主人公が宿敵と刺し違えて瀕死の重傷を負ってしまい、どう考えても助からないという状況でも構わない。過去に行ったことのけじめとして、かつての同僚に自らの命を絶たせてもいいだろう。全部はいらないから望むべきものを、1つでいいから手にしてほしいのである。主人公と(彼らの気持ちに追従してきた私の)願ったことが成就されてほしいのだ。

このとき、同時に「その結果は果たして幸せなのだろうか」ということを、私は知らずのうちに問う。この問いには次の2つの側面がある。

  • 登場人物が望んでいた結果かどうか
  • 私が望んでいた結果かどうか

とりわけ後者はしばしば都合のよい展開を欲する。「実はあいつが生きていればなぁ」とか「どう考えても失敗だけど、奇跡的に成功している」とかそういったものだ。しかしそこには論理的矛盾の壁やご都合主義という安っぽい幕引きが立ちはだかる。そこをうまく納得させるのが、感情の導線なのだと思う。

ではジョニーの見た夢物語は、本当に彼が望み、そして私が望んだものだったのだろうか。それとも字面どおりの夢物語、儚い胡蝶の夢だったのだろうか。たしかにあの結末はジョニーが求めていたものだったろう。それは疑いようがない。それでもやはり私はあまりにジョニーに都合がよすぎるとしか思えない。

彼の愛していたリヴァーはもう帰ってこない。これは動かしようのない事実であり、突き詰めていくと、ジョニーとリヴァーの間に生じた溝は未来永劫埋まらないのである。ただその溝をどうにかして埋める、せめて隔たりを小さくするのがシグムントのエージェント2人に託されたものではなかったのか、と思わずにはいられないのである。
彼の言葉を、額面通りに捉えるべきなのだろうか
ジョニーが願っていたのは表面的には「月に行きたい」というものだったかもしれない。ただそれは本質的には「リヴァーとの間に生じた軋轢をどうにかして消し去りたい」という想いだったのではないだろうか。リヴァーに対する強い心情があったからこそ、彼の忌まわしい記憶を乗り越えて「月へ(To the Moon)」という願いが、理由もわからないのに表出してきたはずなのだ。

せめて夢の世界だけでいいから、ジョニーとリヴァーのもつれた関係をきっちり結び直してほしかった。これが私の望んだものだ。だが『To the Moon』は私の願いを叶えてはくれなかった。だから私は涙できなかった。結末に目頭熱くすることなく嗚咽を漏らさず、冷たくため息をつくようにプレイを終えた。

このままでは最後までジョニーはひとりよがりで、自分勝手に気ままに死んでいったみたいじゃないか、と憤りを覚えるのである。死を間際に迎えた老人が、普通は考えつかないような「月へ行く」という願いを抱くまでには、とうの昔に誰しもが忘れていてもおかしくないような古びたエピソードがあって、さらには自身を歪めてしまうような記憶がそのエピソードが浮上するのを妨げていたのである。決してひとりよがりなだけではなかったと思いたい。仮初の世界でリヴァーと結ばれて何がうれしかろうか、そこに2人の距離を縮めるような何かはあったか、と物語の紡ぎ手(不幸にもゲームで物語を紡ぐのは私自身である。たとえそれが避けられない運命であろうと)に問わずにはいられないのである。

ジョニーと一緒に月へ行ったリヴァーは、彼女の形をした何か、蜃気楼のようなものだ。ありもしない虚構に手を伸ばし、誰に届くでもない果てしなく空虚な想いを抱いたまま、依頼者ジョニーはその人生を終えた。そこにあるのは彼自身の精神の充足だけで、最期を看取る私に充足はない。

その光景を見るにつけて、リヴァーがあの灯台、アーニャになんの思い入れも持たなかったらと想像して、ジョニーの姿を重ねてしまう。誰に見向きもされることなく打ち棄てられ、朽ち果てていくのみの灯台。

そこにリヴァーが手を差し伸べたことで灯台はその姿を保つことができた。だが折り紙という形で彼女が手を差し伸べた相手、ジョニーはその手を繋げずに終わってしまっているのである。あろうことかリヴァーでも、さらにはそのほかの誰でもないリヴァーの姿をした影と手をつないでしまった。そしてそれは最後まで変わらない。
変わっているが、純粋なリヴァー
彼女に感情移入するほど、結末は残酷なものへと変わっていく
2人の間にわだかまっていた呪縛は、お互いが死ぬまで、そして都合のよい記憶だけが像を結ぶ、新たな記憶の世界でさえも残り続けたのである。

あまりに悲しくて、辛すぎる運命で、私はそれを手放しでは受け取れなかった。

私の知るもう1組の白衣の2人は、過酷な未来を回避するために、ただひとつのごくありふれた小さなしあわせを得るためだけに、大きな代償を払っていた。対して『To the Moon』では支払われる代価はなく、得られる報酬も歪みきった世界ではないかと思わずにはいられないのである。

未熟は誰ぞ。主役か、作品か、はたまた我か

『時をかける少女』の記事を読んだ。

The Great Underground Home Page - 時をかける少女(感想)
http://clavis.info/wiki/The_Girl_Who_Leapt_Through_Time

そこでふと感じたことを、投げっぱなし気味に書いて本稿を締めくくりたい。

アニメ版『時をかける少女』は未来を変える話だ。
『STEINS; GATE』もそうだった。
『To the Moon』も形は少し違うとはいえ、未来を変える話だった。
2012年12月30日追記
未来を変えようとするのは、アニメ版の『時をかける少女』なそうなので上記の記述を修正した。

自身が望む未来に一歩でも近づこうと、彼らはあらゆる手を尽くした。時間を、記憶を、大切な何かを、そしてなにより自身を犠牲にした。「求める結末のため、因果に手をかける」という点において、この3作品は共通している。

ただ『To the Moon』がほかの2作品と決定的に異なる点がある。それは未来を変えたい人物が死の淵に佇む老人で、因果を変えるために行動を起こすのが本人ではないことだ。この点が、私を物語から引き離した一因なのかもしれない。このような物語は、私にとって若者が演じるものだったのである。

現実というのはあまりに無情で、自分の力ではどうしようもないということが腐るほどある。物語に登場する前の紺野真琴(『時をかける少女』)や岡部倫太郎(『STEINS; GATE』)は若いがゆえに、このことをあまり知らない。しかし、彼らがひとたび物語の主役となって舞台に上がれば、そのままでは済まされない。いくら踏ん張っても、途方もない大きなものを捨てても、結果というのは簡単には変わらない、という当たり前すぎる現実が眼前に立ちはだかるのだ。

同時に「結果じゃなくて、過程が大事」という、これまた当たり前の事実が頭をもたげてくる。彼らはフィクションの主人公であるから、ある程度納得する形で幸せな幕引きが待っているのが普通だが、それでもやはり過程が重要なのだ。
ヒーローじゃないからこそ、過程が大切になるのではなかろうか
振り切れそうな気持ちを抑えて、つっ走り、躓き、擦りむく。
俯いたり空を仰いだりしても、血や涙を流しても走ることをやめずに、過去と因果を振り切る。
そんな物語を期待していたのだと思う。

しかし、『To the Moon』はそういった物語ではない。

それは水面に石を放おっては、波紋の行く末を眺めるかのようだ。
残された時間はわずかだ。
若者特有の熱情は捨ててある。
死の足音を感じながら、過去を振り返る。
背負った重荷を捨てるのか、背負ったまま逝くのかは知らない。

そう考えると、私がプレイするにはまだ早すぎたのかもしれない。年を重ねたら改めてプレイするべきなのかもしれないな、と思ったりするのだ。

『LA-MULANA』開発者インタビュー 前編

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昨年の話題作のひとつ『LA-MULANA』。同作のPC版リリース決定時からの個人的な願いが、この『LA-MULANA』の開発NIGOROへのインタビューであった。この夢が晴れて実現したので公開したい。

インタビューに応えていただいたのは、ディレクターの楢村匠(ならむらたくみ)氏。『LA-MULANA』の今、GreenlightにKickstarter、海外でリリースすることの難しさ、そしてファンは特に気になるであろう新作の話も伺った。読み応え十分の内容に仕上がっているので、ぜひとも期待して読んでほしい。

結構な文量となってしまったので、前編と後編の2部構成にしてある。

関連記事:
ファーストインプレッション『LA-MULANA』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/07/la-mulana.html
『LA-MULANA』開発者インタビュー 後編
http://nydgamer.blogspot.jp/2013/01/la-mulana_16.html

はじめに

――自己紹介をお願いします。
楢村氏
楢村 NIGOROのディレクター、楢村です。我々の活動は10年以上前にさかのぼります。当時、MSXゲームを扱う個人サイトを運営していたときに、サイトの常連だったプログラマ2人に「ゲームを作ってみたい」と僕が声をかけたのが始まりです。グラディウスタイプの横シューティング*1、次いで『LA-MULANA』を発表し、予想を超えて海外でも高評価を得られました。そこから「ゲーム作りを仕事にできないか」と思いたち、アマチュア活動を終了してスタートしたのがNIGOROです。趣味で始めたものなので、特にテーマもコンセプトもなく好きなように作ってきただけなんですが、NIGOROスタートとともに掲げたコンセプトが「レトロゲームの進化系」ですかね*2

*1 タイトルは『GR3』。ポーズ中にキーボードから「GRADIUS」と入力する隠しコマンドも存在している。なお、NIGOROの前身となるチームの名がGR3 PROJECT。オリジナル版の『LA-MULANA』の開発は5年にも及び、GR3 PROJECTとしての活動期間は8年程度となる
*2 GR3 PROJECT解散時に楢村氏がブログで書いていた文章からも、彼らのポリシー、こだわりといったものを感じられるので一読をオススメしたい

三匹が企む - 振り返ってみよう
http://3hiki.blogspot.jp/2011/06/blog-post_19.html

グラディウスタイプのシューティング『GR3』。画面は『GR3EX』のもの
オリジナル版の『LA-MULANA』

『LA-MULANA』の現状と今後、そしてSteam

――PC版『LA-MULANA』に続き、海外でもWiiウェア版『LA-MULANA』がリリースされ、一旦は一区切りついて落ち着いたのかな、という印象です。現状について率直な感想、感じている手応えといったものについてお教えいただけますか。 
楢村 NIGOROは、最初からゲームを販売することを目標に立ち上げたチームでした。ただ、最初からゲームを売っていたわけではなくて、スタートから2年ほどは無料のFlashゲームを公開して、そこからFlashゲームの製作の仕事の話をもらったりしていました。もちろん、そのあいだも自分たちで世界に向けてゲームを販売する手段、特にコンシューマ機でリリースする方法はないかと模索していました。そんなところに飛び込んできたのが「『LA-MULANA』をWiiウェアで出さないか」という話です*3。我々としても、そこに飛びつくほかないぐらい打つ手がなかったですし、まさに願ってもない機会でした。そこから考えると、リメイク版『LA-MULANA』とは3年以上の付き合いになりますが、長く手間をかけただけのバックを得ているとはいえません。人を選ぶタイプのゲームとはいえ、国内外の多くのレビューで高評価をいただけていますから、「良いもの作ったんだからもう少し売れてくれんかね」というのが率直な感想です。現在はオリジナル版の頃からの熱心なファンが一通り買ってくれた感じもして、もう需要を満たしてしまっているのかな、とも思います。そうなると、あとはまだ『LA-MULANA』を知らなかった人が買ってくれることを願うようになるわけですが、そのためにはもっと知名度を上げなければならないと思います。Steam*4でのリリースが決まれば、やれることは全てやったと言えるんですが、Greenlight*5の仕組みがいまいちピンとこないので、「まぁ、リリースが決まったらラッキー」ぐらいに構えてます。趣味でやっていたオリジナル版のときとは違い、今後の人生まで決まってしまうプロジェクトなので毎日神頼み状態ですが、かといってそこで手堅いものしか作らなくなってしまうとわざわざインディーで続ける意味もないのでまだまだ諦めずにあがきたいと思いますね。
ジャンプに癖があるものの(水平方向へジャンプすると、ほぼ軌道修正ができない)、
理不尽さは少なく、全体的にやりごたえのあるゲームに仕上がっている
遺跡探索というフレーバーが、謎解きに説得力のある深みを与えており、
この手のジャンルのなかでもかなり秀でた印象がある
*3 Wiiウェア版『LA-MULANA』の話を持ち込んだのは、アメリカの会社NICALiS。『洞窟物語(英題:Cave Story)』の移植、パブリッシングに携わったことで知られる。日本産の同人対戦格闘ゲーム『ヤタガラス(英題:Yata)』をニンテンドー3DSへと移植する予定もある
*4 アメリカのデベロッパValveが展開しているPCゲームのダウンロード販売サービス。同様のサービスの先駆け的存在で、ユーザー数は随一。AAAタイトルからインディーゲームに至るまでラインアップも幅広い
*5 Steam Greenlight。デベロッパがSteam上の専用ページに作品を登録してリリース嘆願の投票を募り、その結果に応じてSteamでのリリースが決定されるという試み。2012年8月に開始された。インディーゲームの受け皿として期待される面もあるが、選定の仕方が不透明なこともあって、誰もが歓迎するシステムにはなっていないのが実情である

Steam公式サイト
http://store.steampowered.com/

『LA-MULANA』に関する大まかな動きは、NIGORO公式の動画「The histoy of La-Mulana」がわかりやすい。デベロッパのノリもこれで把握できるという代物である。また、手前味噌ながらPC版『LA-MULANA』のリリースが決まった際のニュース記事も参考になると思う。

関連記事:
News Pick Up 2012年7月第1週 - PC版『LA-MULANA』がPLAYISMにて世界同時リリース決定 2012/07/06
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/07/news-pick-up-201271.html#news20120701_lamulana

――Steamでのリリースを求める声は、海外に限らず大きいと思うのですが、これに関して感じていることがあれば教えてください。
楢村 それだけSteamのユーザーが多いということでしょう。コメントなどを見ていると、すでにほかのサービスで購入した人でも「買いたい」と言ってくれたり、投票してくれていたりしてありがたいかぎりです。WiiウェアとPLAYISMでの売上は、こちらでも確認できているんですが、GOGなどそのほかのサービスでの売上は詳しく知りません。ただ、いろんなところで少しずつは売れているようです。ユーザー数が多いSteamでリリースされれば、それだけ『LA-MULANA』を知らない人の目に留まる確率が上がるわけですから、そういった意味ではSteamで売られるとどのくらい数が変わるのかというのには期待しています。
――ユーザー数の圧倒的な多さは、Steamでリリースするメリットのうちの大きなもののひとつですね。
楢村 ただ、Steamで公開できないと成功にならないという一強状態になっているのが気になります。扱うタイトルを決めるはずのGreenlightも仕組みが不透明で、通るかどうかも予想できず、販売の戦略も立てられません。それに販売されているゲームを見ていると、日本の企業が単体で販売しているゲームはほとんどありません*6。日本のゲームがローカライズされて販売されているものはありますが、だいたい海外の企業が配信を行っているようです。現状では日本からSteamへの自力販売はほとんど不可能といえます。成功には必須なのにチャンスはほとんどないという状態がなんとも言えない感じではあります。

*6 欧米の支社ではなく、日本の会社がSteam上でのパブリッシングまで務めているのは、京都に籍をおくキュー・ゲームスの『Pixel Junk Eden』が挙げられるものの、絶望的と言ってもいい状況のようだ

PLAYISMとの関係

――フリーゲームからスタートした『LA-MULANA』は、Wiiウェア版を経たのち、改めてPCというプラットフォームに帰ってきた形になります。そこでPC版リリースの経緯についてお訊ねしたいのですが、PLAYISM*7誕生1周年となった2012年5月には同サイトで、『LA-MULANA』の主人公であるルエミーザ・小杉が登場していました。この時点ですでにPLAYISMとのパートナーシップは結ばれていたと思うのですが、彼らからのコンタクトはどのようなタイミングだったのでしょうか。
楢村 タイミングで言えば、海外版Wiiウェアの配信をキャンセルするというニュースが流れた直後ぐらいだったと思います。日本でのWiiウェア版『LA-MULANA』リリースから1年近く経っても、海外でのリリースができていなかったので、内部的には結構早い時期から、ほかのハードへの移植に対応できるようにPC版の作業は始めていました。ニュースになったときは、PC版のテストプレイを始めようかというぐらいの段階まで来ていましたし、PLAYISMから声がかかったタイミングもバッチリでした。

*7 PLAYISMは、インディーゲームのローカライズとダウンロード販売を行なっている会社。『LA-MULANA』のローカライズとパブリッシングもPLAYISMである。もともとは海外のインディーゲームをローカライズして日本へ向けて販売していたが、『LA-MULANA』のリリースと合わせて英語版サイトを立ち上げ、現在は日本産のゲームを英語化して販売したりもしている

PLAYISM公式サイト
http://www.playism.jp/

――件のニュースは海外を中心に大きな話題となっていたので、PLAYISM以外の海外のパブリッシャからも声がかかっていたのではないか、と想像しますが……
楢村 リリースキャンセル騒動は、海外の会社と付き合うことの難しさというか、「英語の打ち合わせや英語の契約書に割いてる時間って、ゲーム作ってる時間より多くね?」という疲れを覚えました。その頃、開発が進んでいたPC版は「Steamでリリースしたい」と考えていましたが、Steamとのやりとりを行うにもまた英語と付き合わないといけません。「ウチが協力すればSteamでリリースさせてあげるよ!」という会社もいくつかあったんですが、やはりそれも海外の会社で……。騒動の直後は、顔が見えない異国語をしゃべる仕事相手に臆病になっていた頃で、日本語で話せて海外でリリースしてくれるPLAYISMが理想の相手だと思いました。スタートしたばかりのサービスで知名度が低いことは問題だとも思いましたが、ゲームを預ければ海外の各サービスとの契約を勧めてくれる、というメリットは我々にとって非常に大きかったんです。それにPLAYISMもまだまだ作品数を増やして、海外での知名度を高めようとがんばっているようです。
――Steamでの販売こそまだ実現していませんが、GOGのような類似の海外のダウンロード販売サイトでは、PLAYISM経由ですでに『LA-MULANA』が取り扱われていますね。
楢村 PLAYISMに『LA-MULANA』を預けたからこそ、GOGやDesuraというさまざまなサービスで『LA-MULANA』を提供できるようになっているわけで、可能性を広げたと言う意味でのメリットは大きかったと思っています。これを自分たちの力だけでやろうと思ったら、ゲームを作る時間はなくなっていたでしょう。PLAYISMはクオリティの高いタイトルを集めたかったし、我々は翻訳や英語でのやり取りを任せられるパートナーが欲しかった。お互いに利害が一致したというわけです。『LA-MULANA』のプロジェクト自体は、Wiiウェア版を完成させた時点で終了と言ってもいいぐらいで、そこからは『LA-MULANA』という完成したゲームを使ってどこまで展開できるかというつもりでやっています。なのでPLAYISMには「『LA-MULANA』を利用して、どこまで手を広げられるか実験として利用してください」と伝えました*8。今後、PLAYISMに預けることによってさまざまな海外サービスでも販売できる、という形ができれば、ゲームを出すときはPLAYISMに預ければ安心ってことでゲーム作りに専念できますし。これまで我々が苦労したのはゲーム作りじゃなくて販売するための手間がほとんどでしたから。

*8 PLAYISMは、2013年1月6日限定でPay What You Wantモデル(ユーザーが任意の金額を支払って購入する販売形式)を使った『LA-MULANA』の販売キャンペーンを行った。100円以上の支払いならば好きな価格で購入でき、支払額に応じた枚数のサウンドトラックがボーナス特典として付属するというものである。また、過去にはGroupeesのBulid a Greenlight Bundleにアンロックボーナスとして『LA-MULANA』が登場している。なお、現在はともに終了している

NIGOROの開発姿勢

――『LA-MULANA』のリメイクにあたっては、ユーザーからの声を大きく取り入れた印象が強いのですが、今後もこのような開発方針をとっていくのでしょうか。
楢村 実はユーザーの意見を取り込んだというつもりはなくて、より多くの意見・批判・不満などを集めて、自分のゲーム作りの方針が間違っていないかを確認したという感じです。オリジナル版『LA-MULANA』は、MSXというレトロパソコンを模したスタイルだったため、操作の不便さなども模していました。加えてリメイク版に着手するまでは、自分の中で「おもしろいゲームはこう作る」みたいな方法論を持っていなかったんです。なのでコンシューマで出すタイミングに合わせて、多くの意見を集めて、そこから自分なりにゲーム作りの方法論を定めていったという感じです。それと「空白期間を避けたかった」のも理由として挙げられます。Flashゲーム開発は「NIGOROの名前を定着させよう、知名度を上げよう」という目的でスタートしたわけですが、ひとたび『LA-MULANA』に着手してしまうと、そこからはFlashゲームの製作が難しくなります。そうなると当然、NIGOROのサイトは1年以上何も更新がない、ということになってしまいます。そこで作っている過程を公開したり、アンケートをとったりすることにしました。「どんなコントローラーに対応してもらいたい?」みたいなものは、アンケート結果からゲームに素直に取り込めたりしましたから、作っている過程を見せながらのスタイルは、できるかぎり今後も続けていきたいです。大企業にはできない方法だと思いますし、何より楽しいんです。それに励みにもなります。
――もとはアマチュア活動に端を発する、NIGOROらしいスタイルですね。昨今、話題を集めているKiskstarter*9やアルファファンディング*10といったものに興味はおありですか。
楢村 ゲームを作っているあいだは表立った活動もリリースも止まってしまうので、Kickstarterのような初期資金が得られる仕組みには興味があります。しかし、法律の問題などもあって日本からの利用は難しいみたいですね。

*9 Kickstarterは、Web上でプロジェクトを発表して、資金を募るというアメリカのクラウドファンディングサービス。プロジェクトに興味を持った人は、任意の金額でそのプロジェクトを支援でき、期限までにプロジェクトの目標額が集まれば、晴れてプロジェクト主へと資金が渡るという仕組み。支援者は支払った額に応じてプロジェクトに関連した報酬(プロジェクトの製品版やベータ版への参加資格、プロジェクト主との食事会など)を得られる。ゲーム以外のプロジェクトも多数存在している

Kickstarter公式サイト
http://www.kickstarter.com/

*10 開発初期にあたるアルファ版のゲームをリリースして、ユーザーに早期購入と早期参加を促すビジネスモデル。かの有名な『Minecraft』が採用していた方式である。早い段階で資金を獲得しつつ、プレイヤーの声を拾ってゲームを改良できるという点は、開発にとって大きなメリットとなりえる。一方で、購入者に対して完成品の質が担保されるわけではないのはデメリットと言えるかもしれない(これは先述のKickstarterも同様)

――BGMを作曲する際に「ゲームのBGMだからこそ気を使っている」という部分はありますか。
楢村 実はあまり深く考えていません。作曲担当は2人いますが、僕自身は「ステージの雰囲気に合わせて作ろう」とか「ゲームの世界観を際立たせよう」とかよりも、作りたいように曲を作っている感じです。これは多分、自分が作曲担当でもあり企画者・ディレクターでもあるからできることだとは思いますけど。むしろ僕は「こういうゲームだからこういう音楽であるべき」と定めるほうが嫌いで、「アクションが激しいステージで静かな曲が流れてもいいじゃない」かと考えるタイプです。反対にもう1人の作曲担当*11は、ゲームの雰囲気や内容にしっかりと合わせた曲を作るタイプなので、結果的に変化が出てバランスが取れているかなとは思います。

*11 サミエル(SAMIERU)氏。プログラマとサウンドエンジニアを兼任している。ちなみに初期の頃からいるNIGOROの中核をなすメンバーは楢村氏とサミエル氏、そしてプログラム担当のduplex氏の3名である

――BGMと言えば、リメイク版『LA-MULANA』のBGMは、オリジナル版のものからかなり手が加えられている印象で、個人的に驚いた点のひとつでした。
楢村 『LA-MULANA』に限っていえば「グラフィックを大幅にリメイクする分、音楽もそれ相応にリメイクしなければならないだろう」と考えました。その過程で、好きなように作っていた……悪く言えば統一感のなかったオリジナル版の楽曲群を、民族楽器を多用するアレンジにして統一感を出そうとしました。また、ドラムやベースといったリズム部分を強調して、ノリのよさを出したりもしています。アクションゲームは知らないうちに体が動いてしまうぐらいがおもしろいと思っているので、プレイヤーのそれを誘うのが目的です。

チップチューン寄りのものを想像していたので、プレイして驚いたのがBGM。私は地上で流れる曲「Mr.Explorer」が特に好き。以下に、その「Mr.Explorer」のbandcampを貼っておく。


続く後編ではインディーゲームについて楢村氏が感じていることや、距離の離れた仲間と開発することの難しさ、NIGOROの今後の活動についてなど、『LA-MULANA』から少し距離を置いたよりマクロな内容に焦点を当てている。

関連記事:
『LA-MULANA』開発者インタビュー 後編
http://nydgamer.blogspot.jp/2013/01/la-mulana_16.html

『LA-MULANA』公式サイト
http://la-mulana.com/
NIGORO公式サイト
http://nigoro.jp/
PLAYISM 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.playism.jp/games/lamulana/
GOG 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.gog.com/gamecard/la_mulana
Desura 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.desura.com/games/la-mulana

『LA-MULANA』開発者インタビュー 後編

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『LA-MULANA』の開発チーム、NIGOROでディレクターを務める楢村匠(ならむらたくみ)氏に行ったインタビューの後編。ゲームそのものから少し離れて、開発と販売に関する話を伺った。

関連記事:
ファーストインプレッション『LA-MULANA』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/07/la-mulana.html
『LA-MULANA』開発者インタビュー 前編
http://nydgamer.blogspot.com/2013/01/la-mulana.html

日本のインディーゲームが海を渡るということ

――海外でのリリースにあたり、いちばん必要なもののはなんだと思いますか。
楢村 日本人の持つ几帳面さと繊細さですかね。でもそれは日本に住んで日本のゲームで育っていれば自然と体に染み付いていると思うので、自分がおもしろいと思うものを納得いくまで作りこむ職人気質のほうが必要かもしれません。僕は国が違おうが人種が違おうが、人間がおもしろいと興奮する感覚はそれほど違うわけがないと思っています。困難を乗り越えて障害をクリアしたら誰だって喜びますし興奮します。もちろん、絵柄や世界観などの好みの違いはあるでしょうが、ゲームな訳ですからおもしろさがしっかり成立しているもの、緊張と緩和、抑圧と開放みたいな対比のバランスが取れて、プレーヤーの心を揺さぶることができていれば、変に海外受けを狙うよりもしっかりと評価されると信じてやっています。あと、日本語を使うのは日本だけなわけで、テキスト量が多いと海外で売るための翻訳作業が大変なことになります。だからといって、メッセージがまったくないRPGなんてできるわけもないですし、「ストーリーの展開を中心にすえた日本のゲームが好みだ」と言う海外のプレイヤーもいますから、テキストを減らせばいいというだけの問題でもないので悩みどころです。「START」とか「PLAY」とか「GAME OVER」みたいな、どんなゲームでも使うような言葉をいろんな言語で羅列したような資料があれば助かるのにと思います。
地域による好みの差を表したイメージ図がこちら(楢村氏の台湾での講演スライドより)
――言語のほかに、売るための場所の問題もあったりしますね。
楢村 自分たちでゲームを配信し始めると、日本のインディーゲームがぶつかる壁みたいなものがすぐに見えました。日本のインディーゲームに注目して、自力で翻訳してまで遊ぶと言う熱心なファンもいるにはいるんですが、そんなに数がいるわけではありません。
――絶対数で言えば、やはり少ないですよね。
楢村 『洞窟物語』の天谷さん*1と話していて、「少なくとも自分たちに近い世代の作り手は、売るために作るのではなくて作りたいから作るタイプの人が多そうだ」って話になったんですね。「自分が作りたいものを納得いくまで作りたい」という職人タイプとでも言いますか……。だから作り終えても売るのではなく、フリーで公開するんじゃないか、と。つまり、日本のインディーゲームは職人がそれぞれの場所で腕を磨いているような感じで、「日本のインディーゲームはこういう傾向だ」みたいにまとめられないんじゃないか、と思うんです。レコード屋にインディーズコーナーを作りたいけど、コーナーを作るだけの枚数が集まらない、みたいな……。なので日本のインディーゲームに対して、海外のより多くの人に興味を持ってもらうためには、何かしらの形で日本のインディーゲームが集まっている場所が必要だと考えていました。日本インディーコーナーが充実しないと知る人だけしか知らない狭い市場になってしまうのではないか、と。自分たちが今後も世界に向けて活動をするためにも、やっぱり安定した売り場がないと続けていけないと思います。移動販売車で売って回るよりも、大型スーパーに置いてもらったほうが売れるし、手間も減るだろうって考えです。

*1 天谷大輔氏。個人のゲーム開発者で、フリーゲームの金字塔とも言うべき存在、『洞窟物語』を手がけたことで知られている

――日本で「インディーゲーム」と言うと、フリーゲームに同人ゲーム、シェアウェアなどが混在しおり、これらが一緒に語られる場合も多いです。その良し悪しは置いておくにしても、結果的に話がややこしくなっているきらいがあります。NIGOROはインディーデベロッパを自認していると思うのですが、楢村さんは「インディーゲーム」の定義をどのように考えていますか。
楢村 Steamで日本語訳されているような、「独立系開発会社」というのがいちばんイメージが近いと思います。もちろん、個人で製作している人も、会社にまではしていないというところもあるでしょうが、物を売る以上は配信サービスと契約を結ばなければならないので、仕事としての商売になると思います。日本では「同人」という言葉のほうが早くから浸透していたり、フリーや個人口座振込みの自前販売、コミケのようなコミックの流通形態に乗った形があったりするので、日本では「ゲーム会社に勤めずにゲーム作ってる人」というまとめかたになっているかなー、と感じます。そうなると、ウチのように最初から会社として自前で広報やサイト運営までやっていると、「お前らはゲーム開発会社だろう」と言われてしまうのがどうしたものかと思っています。個人的な考えですが、「『既存の流通に乗らず、メディアでも紹介されないゲーム』がインディーゲームかな?」と思うんです。でも、最近だと個人製作のゲームを企業が買い取って企業の商品として流通したりするもんだから、ますます混在してしまってますね。同じようにゲーム作りをしている人のあいだでも、パソコンゲーム、スマホゲーム、ノベルゲームみたいな感じに棲み分けされているようにも感じます。こんな風にインディーゲームという言葉が定義が定着するより前に細かく枝分かれしてしまったのも「日本のインディーゲーム」とまとめられない原因だと思います。これはもう、やってる本人たちが「自分はインディーズ」と言うか言わないかしかないのではないでしょうか。

全国に散らばるメンバーと開発の難しさについて

――NIGOROは、ひとつの会社に皆で出勤するという形ではなく、日本中に散らばっていますが、やはり苦労も多いのでしょうか。
『GR3EX』起動時のロゴ
やはりMSXを強く意識しているのがわかる
楢村 アマチュア時代からこの形で続けてますから、もう手馴れたものではあります。初期の頃はネットでのやりとりだけが唯一の連絡手段だったので、ネット上に現れないと連絡の取りようがない、ということは多々ありました。さらに作ってもらいたいものを指示するにもネット経由なわけで、最初は苦労したものです。それにアマチュア時代はMSX風*2に作るという意思統一がありましたから、指示が抜けてたり、ちゃんと伝えきれていなくても、各々がMSXという実在する環境に似せようとしているので、そこまでおかしなものができることはありませんでした。しかし、NIGOROになってからは、企画者である自分がプログラマにうまく伝えられていないと、意図しないものができあがってきます。意図しないものがあがってくれば、当然、リテイクが発生して時間を消費してしまいますから、製作時間を延ばさないように、それによってだらけてしまわないように、スタート時に手間暇かけるようになりました。最初に企画書を作ってイメージの意思統一を行い、仕様書サイトを作ってそこに指示を書いていきます。動くものを作ってもらうのに文字だけだと伝えにくいので、絵を先に仕上げたり、Flashで動きの説明ムービーを作ったりしています。また、規模の大きなゲームを作るときは、必ずホテルに数日こもらせてもらって企画を練る、ってことををさせてもらってます。

*2 インタビュー中でも何度か言及されているMSXは、簡単に言うと、ゲームができるすごく昔のパソコン。MSX好きが集まった結果、『LA-MULANA』が生まれたのはインタビュー前編でも触れたとおり
リメイク版『LA-MULANA』には、同機をもじったMobileSuperXが登場する
インタビュー中で言及されていた『LA-MULANA』の仕様書サイトから、一部をキャプチャしたものが以下の画像。日付や具体的な指示、数値なども入っており、細かなやりとりを垣間見ることができる(画像クリックで拡大)。


――NIGOROと同様にネット上で仲間を集めるといったスタイルで、ゲーム開発を考えている人たち、あるいは過去の自分にアドバイスするとしたら、何を伝えますか。
楢村 なかなか近い環境でゲーム作りの仲間を集めるのは難しいとは思います。いちばんのポイントは同じレベルの人間を集めるってことでしょうか。とにかく募集して集まった面子で続けるのは難しいと思います。我々の場合、僕が運営していたゲームサイトに集まった常連に声をかけてますから、集まる前にある程度の人格とか考え方とかをわかったうえで誘っています。それにゲームを分担して作るとなると、大変な作業ですし、時間もかかるわけです。担当ごとに製作時間もバラバラなわけで、物理的に距離が離れた者同士が相手を待っての作業となると、自分のペースで作れないということになります。そうなるとイライラも募りだすものです。さらに担当ごとに趣味が違ったりすると、他人の成果に文句もつけたくなりますし、「最高の作品を作りたい」と意気込む人と「楽しそうだから参加してみた」っていう人とではイライラの募り具合も違うでしょう。しかもネット越しに製作してるってことは、ハンドルネームとメールアドレスも変えてしまえば、容易に失踪できてしまうわけで……。我々はNIGOROとして再スタートするときに1度、1箇所に集まって顔合わせしました。これからは仕事としてお金も絡むわけだから、実際に相対して「この人とやっている」と感じることが重要だと思ったからです。長くなりましたが、仲間を集めるにネットが便利なのは間違いないので、いきなり作るよりはまず長く続けられる仲間を探すことでしょうか。できあがりのイメージも、好みや趣味も、完成への意欲も、目指している「レベル」が近い仲間のほうが続けていけると思います。あとゲームでも絵でも自サイトでもいいですが、「長い時間をかけてでも、自力で何かを完成させたことがある人」ってのも時間のかかるゲーム作りをあきらめずに続けていくには重要な要素かな。

NIGOROのこれから

――今後の活動予定をお教えいただけますか。
楢村 もちろん、新しいものをこれからも作っていくわけですが、活動を続けていくためには『LA-MULANA』がじわじわとでも資金を稼いでくれないと、我々も続けていけません。ネット販売は品切れがない代わりに自分たちで動きを見せなければ注目もされないので、後からステージを追加したり改造したりできるMOD対応にしてあります。「ツールを公開しないのか?」と言われてますが、公開するには最低限他人が使える形にしないといけません。メニューを英語化するとか、Windows 7以降でも使えるとかですね。それよりもまだDesuraで配信されてからあまり経ってない新作(笑)なわけですから、ちょっとまだ出すには早すぎるかな、と思ってます。昔、ファミコンの『ゼビウス』が発売されてから1年後に無敵コマンドが発見……公開かな?*3 ……されてみんな再びゼビウスを引っ張り出したような、ああいう盛り上がり方が理想です。

*3 筆者はこのことを詳しく知らないので調べてみると、雑誌「コンプティーク」の1985年7/8月号が、この無敵コマンドを最初に取り上げたメディアだったようだ。ファミコン版『ゼビウス』の発売が1984年11月なそうなので、ソフトの発売から半年近く経ってからこのコマンドが掲載されたことになる。これによって冷めつつあった『ゼビウス』の人気を再燃させたほか、ゲーム中の隠しコマンド、いわゆる裏技ブームが到来したとのことらしい(それまでは、裏技と言えば公式に用意されたものではなく、ゲームのバグを用いたものであった)。参考として記事を1つ貼っておく

ファミ通.com - ゲーム人生回顧録 - 乱舞吉田 第25回 ファミコン:その10(『ゼビウス』) 
http://www.famitsu.com/game/serial/1140139_1152.html

――新作の話もチラホラ聞こえてきていますね。
楢村 ゲームのほうはすでに新しいものを作り始めたところです。アクションゲームサイド*4のインタビューでも触れたとおり、シューティングゲームを作っています。これはPLAYISMにできるだけ早く作品を提供したいっていうことで、比較的プログラムが速く仕上げられるシューティングということになりました*5。シューティングと言っても僕はひねくれものなので、今、主流の弾幕シューティングではなく、地形のある横スクロールシューティングです。妙な仕組みのシューティングになる予定です。年末だったり*6、『LA-MULANA』にもまだ動きが残ってそうだったりで時間を奪われがちなんですが、なんとか1年かけずに作れないか、という挑戦も含んでいます。あとは『LA-MULANA』と違い、最初からパソコン版としてリリースするわけで、今後、この活動を続けていくうえでの作業工程を固めたいと思っています。そんな縛りがあるなかで、どこまで特徴のあるシューティングにできるか、どれだけくだらないことにこだわれるかも大事にしたいです。近いうちにタイトルの発表や体験版でも出せればと思っています。
新作シューティングの画面写真。『グラディウス』ライクなパワーアップシステムを想起させるHUD、
それに東京スカイツリーらしき建造物が見える
新作の主人公「リラ・ユーロ」のラフ(キャラクター名は、このインタビューが初公開)
リラ(トルコ通貨)、ユーロ、そしてデザインの「¥」と、「お金」がキーポイントとなりそうだ
*4 2012年9月にマイクロマガジン社より創刊された、2Dアクションゲーム専門誌。2012年の話題作『LA-MULANA』の開発者として、楢村氏のインタビューが掲載されている。個人的には「串カツ屋での心中話」が見どころ(詳しくはアクションゲームサイド Vol.1を読んでみてほしい)。なお、PLAYISMのブログでもこの心中の話がチラリと出ている

ゲームサイド公式サイト - アクションゲームサイド Vol.1
http://gameside.jp/ags/ags1/
ゲーム ダウンロード販売 PLAYISMブログ - 【La-Mulana】LA-MULANAと日本インディーズゲームの未来の話。
http://playism.blogspot.jp/2012/10/la-mulana.html

*5 タイトルや詳細は明らかになっていないが、台湾で楢村氏が行った講演のスライドにも画面写真数点とキャラクターイメージが出てきており、徐々に情報が明かされつつある。講演の詳細は、NIGORO公式ブログを参照のこと

NIGORO公式ブログ - 台湾でしゃべりました
http://nigoro.jp/ja/2012/12/i-spoke-in-taipei/

*6 インタビューを行ったのは、2012年の年末である

最後に

――――インタビューを読んでいる方にメッセージをお願いします。
楢村 アマチュア時代に「ネットが発達して、ゲームをネットで販売するというのはいけるかもしれないぞ」と考えてNIGOROを始めました。その後、「海外で爆発的に売れて大成功したインディーゲームが出てきているぞ」と聞いて、「日本でもインディーゲーム製作を仕事としてやっていけるかも」と考えて、PLAYISMとともに『LA-MULANA』を販売しているわけですが、なかなか思うように進みませんし、諸手を上げて大喜びできるような成功にもまだまだたどりつきません。自分たちの成功ももちろんですが、『LA-MULANA』に限らず誰かが成功させることができれば、日本のインディーゲームの可能性がもっと広がるのでは、と思っています。インディーゲームは市販ゲームと違って売上が発表されるようなものはほとんどないため、チャレンジしようにもどのぐらい売れるのかという目処もつかないと思います。我々の目標だと「1000円ぐらいのものが5万本でも売れれば、今の人数で次の1本を1年ぐらいかけて続けられるのに」という感じです。現状、そこまで達していないので、ほかの仕事をしながら続けていくしかない状態です。苦しいながらも日本のインディーゲームの発展はまだまだこれからで伸びしろがあるのも体感していますから、ここであきらめず食らいついていきたいと思っています。それと「インディーゲームとして活躍したい!」という人は、時間のある学生のうちから取り組むのがいいよ、とも言いたいです。

『LA-MULANA』公式サイト
http://la-mulana.com/
NIGORO公式サイト
http://nigoro.jp/
PLAYISM 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.playism.jp/games/lamulana/
GOG 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.gog.com/gamecard/la_mulana
Desura 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.desura.com/games/la-mulana

インタビュー時は未確定であった『LA-MULANA』のSteamリリース。2013年1月16日付で同作はSteam Greenlightを突破したGreenlitタイトルとなり、Steamでのリリースが決定している。これは開発チームNIGOROの今後を占ううえでも、大きな一歩となりそうだ。同作と、NIGOROのさらなる活躍に期待したい。

ゲーム ダウンロード販売 PLAYISMブログ - La-Mulana GreenLight突破!

インタビュー後編から読み始めた人もいるかもしれないので、前編について説明しておく。前編では『LA-MULANA』をリリースして感じている手応え、開発に対する姿勢、海外でのWiiウェア版『LA-MULANA』キャンセル騒動などについて語っている。

関連記事:
『LA-MULANA』開発者インタビュー 前編
http://nydgamer.blogspot.com/2013/01/la-mulana.html

翻訳記事:C83 シューティングハイライト『∀kashicverse– Malicious Wake–』

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同人サークル、エンドレスシラフによって開発された縦スクロールシューティング『∀kashicverse –Malicious Wake–』。本作のレビュー記事が、日本の同人ゲームのローカライズとダウンロード販売とを手がけるNyu Mediaに公開されている。そこで今回は許可を得て、レビュー記事の日本語訳を掲載する。

以下の記事は死に舞氏による寄稿で、訳も彼によるもの。彼自身による『∀kashicverse –Malicious Wake–』のレビューも、日を追って公開したいと考えている。

<以下、訳文>
ゲームにおけるもっともハードコアな世界の最深部からやってきたのは、エンドレスシラフが開発したSTG『∀kashicverse– Malicious Wake–』だ!本作はコミックマーケット83で発表された数少ないオリジナル作品の完成版の1つであり、実際のところ、本当に珍しいプロジェクトだ。CAVEのクラシックなテーマ(蜂!蜂!蜂!の大群)と同時に、『Hellsinker.』、『らじおぞんで』といった同人ゲームの伝説的作品から強烈に影響を受けた本作は、数年間の開発期間を経て、昨年リリースされた。そして、その『∀kashicverse』は、恐ろしく多様な要素を詰め込まれており、感覚刺激の洪水を生み出す。
本作の特徴は、デジタルかつ高度にハイテク化された機械と精神世界が織りなす謎めいた融合である。それはまた、弾幕シューティングとして期待されるものよりも、むしろLSDのトリップに近い徹底的な狂気の世界を背景として進行する。素晴らしいサウンドトラックはただのBGMではない。音楽はゲームの雰囲気を盛り立て、ゲーム体験において積極的な役割を果たす。例えば、大量な敵の編隊、ステージのイベント、そして弾幕のパターンはクレージーなビートや楽曲の特定の部分と相互作用を引き起こし、極度のシンクロ感覚を作り上げる。

ゲームシステムの詳細や特異なスコアシステムの解説は後に回し、手っ取り早く本質に移ろう。プレイヤーキャラクターは、低速移動ボタンを押すと収束する基本的なショット機能を1つ持っている。非常にスタンダードなショットだが、多様な局面で効果を発揮する多目的武装である。だが、本作のゲームシステムの本質は、メソッドシステムの存在である。メソッドとは、メレ・エネルギーのハサミ*1からレーザー誘導のミサイル、ボムまでを含めたスペシャルアタックである。それらの攻撃はメソッドゲージを消費して使用することが可能。ゲージは8段階まであり、格闘ゲームのように特定の方向キーのコマンド入力で発動する。

*1 melee energy scissors。近接戦闘用のハサミ型エネルギー兵装、といったところか

以下のビデオでは、基本的なメソッドが紹介されているのでチェックしてみよう。
では、メソッドをいかに使用するかを見ていこう。コマンド入力ボタンを押し続けると、敵弾を遅くするオーラが発動する。その後に、方向キーで特定のコマンドを入力し、ショットボタンを押すと、好みのメソッドが発動する。非常にトリッキーな感覚で、2DSTGというより格闘ゲームに近いわけだが、一度慣れてしまえば、メソッドは自然に出てくる!それぞれの攻撃方法は異なる量のゲージを消費する。例えば、少量のゲージ2本で強力な弾幕を追い払う攻撃が可能、また、より強力なメソッドを発動することで画面上のすべてを追い払うこともできる。

メッソドによっては、さらにゲージを消費することで、多段攻撃を行なうこともある。また、敵によっては、メインショットを跳ね返すため、メソッドでしか対処できないものもいる。このシステムは非常に戦略的なものであり、「自分自身で戦闘スタイルを選択する」というアプローチだ。すべてを徹底的にボムで処理するのか? 特定の標的を狙いに行くか? 自機のゴーストレプリカを発動し、敵のAIを欺くか? 近づいて敵と乱闘するか? もしくは、敵弾を避けつつ、ゲージを最大までためて、エリミネーターを起動するか? とにかく、プレイヤーは敵弾を遅くするオーラの力を借りつつ、狂気のごとく高速に湧き出てくる弾幕への恐れを克服する必要がある。このシステムを巧妙に使いこなすことによって、もっとも危険な状態でも生き残るようになる!

本作は現在も重要なアップデートをいくつか進行中のようだが、現状でも素晴らしい出来栄えだ。しかしながら、明らかに臆病な人のためのゲームではない。だがそれでも、本作はPC向けのSTG格納庫に強力な一石を投じ、総じて偉大な同人ゲームであることは間違いない。Stan Bushの有名な80年代ヒットソングの「Dare」が言うように、「勇気を持ってサバイブできると信じろ!」*2

*2 dare to believe you can survive!

より詳細は、かちょええ∀kashicverseのホームページをチェックしよう。
http://endless-shirafu.com/akashicverse/index.html









原文:
Nyu Media公式サイト - C83 STG Highlight: Akashicverse -Malicious Wake-(Endless-Shirafu)

記事中の注釈は、私(Mozu)が追記した。

Nyu Media公式サイト
∀kashicverse -Malicious Wake-公式サイト
http://endless-shirafu.com/akashicverse/

寄稿について

当ブログでは内容の充実を図るため(私だけでは手が回り切らない、そもそも遅筆、ゲームプレイや睡眠といった様々の誘惑があるといった事情も存在)、寄稿をいつでも受け付けている。

寄稿してみたい、または寄稿に興味があるという方は、hayaniemozuアットgmail.comまでメールするか、以下のCONTACTまで。

CONTACT

『ファタモルガーナの館』とのコラボを含んだ企画のお知らせ

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Twitterで私をフォローしている人は散々目にしていると思うのだが、『ファタモルガーナの館』というノベルゲームが実に素晴らしい。このゲームのよさは後日レビューで詳しく触れるとして、今回は本作に関する企画のお知らせである。

『ファタモルガーナの館』ってなに?

簡単に紹介だけ。『ファタモルガーナの館』は呪われた館を舞台にしたノベルゲーム。その館で目を覚ました「あなた」は、自身のことを「旦那さま」と呼ぶ謎の女中に手を引かれて、館の中を進んでいく。女中は、この建物で起きたという様々な悲劇を「あなた」に見せるのだが……。

そこで目にするのは、
人々の情と、業と、信念とが交錯するかつての館の姿。

ページを繰るのは「あなた」。
館に渦巻く悲劇を紐解き、その先へ。

館の呪いとは?
女中が「あなた」を慕う理由とは?
時を超えて館に度々現れる白髪の少女とは?
そして「あなた」自身はいったい誰なのか?

館を訪れたのなら見届けなければならない、
悲劇の始まりと終わりを。
その終焉と再生を。

悲劇で黒く塗りつぶされた館に、白い光が差す日を求めて。

公式のPVも貼っておく。キャラクターの解説テキストが消えるのが早いため、ちゃんと読むのは厳しいが、楽曲も含め、全体の雰囲気を知るにはよいと思う。


『ファタモルガーナの館』公式サイト
http://novect.net

本作は、テキスト、ビジュアル、サウンド、そしてそれらを束ねる演出と非常に高いクオリティでまとまっていてオススメ。暴力描写もあるので、いわゆる「心臓が弱い人」には勧めにくいのだけれど、多くの人に手にとってほしいと強く感じた作品である。

ちなみにプレイ時間は20時間弱といったところ。公式サイトでは体験版も公開されているので、ぜひプレイをオススメしたい。こちらも終わるまで3時間程度かかる。

ファタモルオーケストラ&アンケート企画の概要

先に断っておくと、以下で紹介する企画は『ファタモルガーナの館』をクリアした人向けのものである。もちろん、クリアしていなくても参加はできるが、クリア済みの人のほうがより楽しめるだろう。

企画は以下の2つ。

ファタモルオーケストラ

本作で一部のBGMを手がけている守屋昂生氏がTwitter上で発言したのがきっかけで始まった企画。本編で使用されている65曲の中から7曲(1~3章から各1曲 + 4章以降から4曲)を、守屋氏の手でオーケストラ調のメドレーにするというものである。

同じサークルの過去作『霧上のエラスムス』においても、守屋氏によってオーケストラ版メドレーが制作、公開されている。以下の動画を参照してほしい。
なお、『ファタモルガーナの館』の楽曲のうち一部は、同作の公式サイトから試聴が可能。

『ファタモルガーナの館』公式サイト - 音楽・絵
http://novect.net/music_illust.html

アンケート企画

題して「Novectacleとかファタモルについて聞きたいことがあったら、どんどん聞くのです」企画。つまるところ、インタビューで訊いてみたいことを募集するアンケートである。

もともとは『ファタモルガーナの館』が好きすぎた私がインタビューをお願いし、それを快く了承いただいたのが始まりなのだが、さらに(リリース直後という事情を鑑みた)私のわがままにご理解いただき、今回のような形になった。すべての質問に答えられるとは限らないし、それを掲載できるとも限らないのだが、クリア済みの(絶賛プレイ中の)プレイヤーなら訊いてみたいことがきっとあるはずである。ぜひとも参加を検討いただきたい。

以上の企画は、『ファタモルガーナの館』公式サイトに設置された特設フォームより応募ができる。オーケストラメドレー企画のみやインタビュー企画のみでの参加も可能なそうだ。

以下のバナーより企画概要のページにジャンプできる。応募フォームはページの末尾に設置されている。フォームの設置期限は、2013年2月10日(日)24時まで。

『ファタモルガーナの館』公式サイト - ファタモルオーケストラ&アンケート企画

インディーゲームの小棚:Shelf#01『Deadlock』

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「最近のインディーゲームは、数が多すぎてついていけない」とお嘆きのアナタに個人的にオススメしたい、個人やサークルといった単位で開発されたオリジナルゲームを紹介する連載、「インディーゲームの小棚」。記念すべき第1回は、フランスの5名の開発者によって開発されている、ファーストパーソンプラットフォーマー『Deadlock』を紹介する。

※本連載「インディーゲームの小棚」は、4Gamerで連載されている「インディーズゲームの小部屋」のタイトルとコンセプトを真似たものですが、「インディーズゲームの小部屋」との関連は(私が一方的にファンであるというだけで)一切ございません。

4Gamer - インディーズゲームの小部屋
http://www.4gamer.net/words/001/W00176/


『Deadlock』は、機械仕掛けの塔をただひたすら登っていくというゲームだ。ストーリーは一応あるものの、ほぼないと言っていい。そこに塔があれば、深い理由などなくともそれを登りつめたいと思うのはゲーマーとしてごく自然な欲求なのだから、ストーリーがなくても気にすることはなかろう。なにより「眼前の壁を乗り越える」というのは、ゲーマーが等しく持っている性なのである。
唐突に上空からプレイヤーが落下してくるところから、ゲームは始まる
操作は一般的なFPSのそれにならう。WSADで移動、スペースキーでジャンプ、マウス操作で視点移動、左マウスボタンで射撃といった具合だ。右マウスボタンでスコープを覗きこむこともできる。

一般的なFPSのそれと比較すると、ジャンプに独特の浮遊感があるのが特徴だ。ジャンプ中にスペースキーを押すと二段ジャンプができる。さらにステージ上にあるジャンプパッドのような噴出機構に触れることで大ジャンプが行なえる。これらを駆使して塔を登っていくというのが本作の基本的なゲームプレイとなる。

ジャンプパッドは、弾丸を撃ちこむことによってオンオフを切り替えることが可能で、進行を妨げるように設置されているジャンプパッドをオフにしたり、足元のジャンプパッドをオンに切り替えて大ジャンプできるようにしたりすることで道を切り開いていく。
ジャンプパッド。撃つとオンオフが短時間切り替わる
このまま進むと左側に吹き飛ばされてしまうので、ジャンプパッドを撃って停止させなければならない
グラフィックのクオリティは。この手のジャンルのインディーゲームとしては高い部類にある。銃を構えていない状態でもスコープに映った景色が変容するといったように、細かな部分まで気が配られているという印象。また、黒を基調とした開放的なビジュアルデザインは、初代『Portal』の白い閉鎖空間とは違った趣で、洗練された美しさがある。

射撃やジャンプの際に生じるメカニカルな音や、道中に現れるキューブ型の敵Troopersの話し声(『Portal』のGLaDOSを想起させる。以下に貼った動画がわかりやすい)などサウンドエフェクトが秀逸である。特にジャンプパッドで大ジャンプする際の音がかなり心地よい。ちなみに5人いる開発者のうち2人がサウンドデザイナーのようで、いずれも『JUST DANCE』シリーズに関わった経歴を持っている。『Puddle』にも参加している模様。
ゲームモードは1つしかなく、銃の残弾数が実質的にほとんど意味を持たないなど、現状、荒削りと言わざるを得ない部分もある。しかし、それでも大ジャンプで空中を行き来するシンプルでダイナミックな爽快感あふれるゲームプレイは、そこに光る何かを感じさせる。なかでも空中制御と素早いエイミングを駆使して進んでいく後半のパートは、やりがいのあるもので、さらなるボリュームアップを望みたくなる出来栄えであった。
終盤にある、花のようなオブジェクトを飛び回って進むパートがいちばんおもしろかった
スタート時に自分がいた場所が遥か彼方に小さく見える達成感
パズル要素はあるものの、『Portal』フォロワーが陥りがちなパズル的な難しさはほとんどなく、ある程度気軽にプレイできるのは利点だろう。チェックポイントが細かく存在しているうえに(後半はやや長めのスパンになる)、リトライ速度がほぼ最速と言えるレベルなのでプレイアビリティも高い。一方でジャンプマップを愛好しているプレイヤー、『InMomentum』や『Mirror's Edge』、『Portal』といったゲームの熱心なプレイヤーには物足りないかもしれない。

『Deadlock』は、もともと2012年開催のゲームジャム「7 Days FPS」生まれのタイトル。2012年末にはUluleというクラウドファンディングサービスで開発資金を募っており、目標額の約4000ドルに対して、6000ドルの資金を得ることに成功している*1

*1 Ululeの金額表記が日本円であるため、記事執筆時の為替で算出したおおよその額をドル表記している
現在、公開されているのは無料のデモ版。プレイ時間は30分~1時間程度だろう。Unity3D製で、Windowsのほか、MacやLinuxにも対応している。クラウドファンディング時の情報を鑑みると、製品版は$5~8くらいの価格で提供されるものと思われる。製品版では重力反転や消える床といった要素を付加してゲームプレイが拡張されるようだ。しかしながら、当初2013年2月に予定されていた製品版のリリースは続報に乏しく、予定通りにリリースされるのかは不明である。いずれにせよ、製品版での更なる飛躍に期待したい。(Mozu)

『Deadlock』公式サイト
http://www.deadlock-game.com/
Ulule - 『Deadlock』のプロジェクトページ
http://www.ulule.com/deadlock/

インディーゲームの小棚:Shelf#02『McDROID』

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辛いことがあると「前世でものすごく深い業を背負ったのではないか」と、某同人ノベルゲームの影響をうかがわせる思い込みが渦巻く筆者がお送りする、「インディーゲームの小棚」の第2回はElefantopiaの『McDROID』を紹介する。

※本連載「インディーゲームの小棚」は、4Gamerで連載されている「インディーズゲームの小部屋」のタイトルとコンセプトを真似たものですが、「インディーズゲームの小部屋」との関連は(私が一方的にファンであるというだけで)一切ございません。

4Gamer - インディーズゲームの小部屋
http://www.4gamer.net/words/001/W00176/

『McDROID』は、タワーディフェンスと呼ばれるストラテジーゲームに属する。タワーディフェンスは、波状攻撃を仕掛けてくる敵の大群を相手に、タワーと呼ばれる迎撃兵器を設置して、本拠地を守るというゲームだ。比較的歴史の浅いゲームジャンルなものの、評判の高い『Defense Grid: The Awakening』を筆頭に、FPSと組み合わせた『Sanctum』、RPGライクな成長&カスタマイズ要素を付加した『Defender's Quest』など、他ジャンルとのハイブリッドタイトルの開発も盛んなジャンルだ。

基本的なルールは既存のタワーディフェンスに準ずる。圧倒的物量による敵の猛攻を、知略を駆使した迎撃態勢を敷いて凌ぎきればよい。本拠地が破壊されてしまうと、その時点でゲームオーバーとなる。『McDROID』ではロボットと呼ばれる自機を操作する。自機は迎撃兵器の設置ができるほか、フィールドを歩きまわって戦況を確認したり、資金となるイチゴを集めて運搬することができる。自機が破壊された場合はゲームオーバーが待っている。

タワーディフェンスにおけるタワーは、武器の種類こそ数あれど、固定砲台なのが普通だ。しかし、本作ではタワーの武器が取り外し可能で、自機とタワーが同じ武器を使える点が大きく異なる。武器をタワーに設置し固定砲台として迎え撃ってもよいし、自機に武器を取りつけて移動砲台として積極的に攻勢にうって出てもよいというわけだ。状況に応じて1箇所に武器を集めて局所的に火力を上げるといったような柔軟な対応が求められる。また、タワーは敵の攻撃を受け続けると破壊されてしまうため、適宜タワーの様子を見て回り、修理しなければならない(自機がタワーに接近すると自動で修理可能)。
最初のステージでは、最初は左、次に右から攻めてくる敵を、武器を付け替えて迎撃する
マシンガンやミサイルといった武器のほか、自機についてまわる小型のロボット(中央やや左)も登場する
タワーの設置に資金が必要だったり、資金を使ってタワーを強化できるといった点も、一般的なタワーディフェンスと一緒である。ただし、敵を倒しても資金を得ることができないのは注意が必要だろう。資金はフィールド上にあるイチゴを回収し、本拠地に持ち運ばなければ得ることができないのだ。なお、イチゴは時間経過によって育ち、成長が終わると茎から離れ、ここまで来て初めて入手できるようになっている。チュートリアル以外では、あらかじめイチゴの種を植える必要がある。種には限りがあり、植えられる場所も決まっているので計画性が重要だ。

以上のように迎撃態勢を整えるためには、あちこちを奔走してイチゴを集めたり、武器を設置したりしなければならず、なかなか忙しいゲームプレイに仕上がっている。タワーディフェンスを含むリアルタイム制のストラテジーらしい忙しさ、そしてそれを克服したときの達成感を味わえる。

さらにおもしろいのは、Bonsaiと呼ばれる武器の存在。Bonsaiは武器として購入でき、アップグレードできるものの、一切攻撃ができない。その代わりにBonsaiの効果範囲内にあるほかの武器は性能が向上し、さらに高い火力を叩き出すことができるようになっているのだ。加えてBonsaiの効果範囲内ではイチゴの成長速度が上がるため、資金を早く集めることが可能になる。また、フィールドに点在するダメージエリア(エリア内にあるタワーや自機にダメージを与える)もBonsaiの効果で無効化できる。このように本作のシステムにおいてBonsaiは非常に重要なポジションを占めており、これが独特のプレイ感覚につながっている。
Bonsaiの影響範囲は、地面が青っぽいエフェクトで覆われる。
とはいえ、基本的なプレイ感覚はまさしくタワーディフェンス。画面を覆い尽くす敵の大群に、それを迎え撃つ凄まじい量の弾幕といったタワーディフェンスの持ち味に、自機の移動や武器の取りつけと取り外し、それにBonsaiの存在がアクセントとして効いている。

この手のゲームではお馴染みとなっている高難易度のモードも収録されているが、プレイの幅は狭く、レベルデザインはまだまだ発展途上という印象が拭えない。記事執筆段階の『McDROID』はベータ版であり、現在も精力的にアップデートが重ねられているので、この不満が今後改善されていくことを望みたい。開発によると、ドロップイン方式の協力プレイに対応しており、クロスプラットフォームにも対応予定があるとのこと。
敵と弾幕、そしてそれらのエフェクトなどで埋め尽くさせる画面
攻撃範囲を指定したりできるカーソルが見えにくいのはマイナスポイント
敵を倒したりすることで出現するクリスタルを集めると、
高次の武器をアンロックしたり、強力な消費武器を購入できる
上述のように現在リリースされている『McDROID』はベータ版の状態にある。同作は、公式サイトのほか、Desuraで購入が可能でデモ版も公開されている。価格は$14.99。また、今ならIndie Game StandにてPay What You Want方式で購入も可能だ*1

*1 Indie Game Standは、4日ごとに日替わりでインディーゲームが登場し、Pay What You Want方式で販売する(つまり任意の価格で購入できる)サイト。『McDROID』は日本時間で2013年2月9日14時まで購入できる

『McDROID』公式サイト
http://www.mcdroidgame.com/
Desura - 『McDROID』のページ
http://www.desura.com/games/mcdroid
Indie Game Stand
https://indiegamestand.com/

インディーゲームの小棚:Shelf#03『Cargo Commander』

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『ハートオブクラウンPC』のプレイを我慢してまで楽しみにとっておいたカードゲーム『ドミニオン』。先日、ついにその『ドミニオン』をプレイし魅了された筆者がお送りする「インディーゲームの小棚」の第3回は、オランダのデベロッパSERIOUS BREWの『Cargo Commander』を紹介する。宇宙の果てでカーゴ漁りに精を出すという本作は、一見地味な2Dアクションながら独自のステージ生成機能がウリとなっている。『ドミニオン』をはじめとするデッキ構築カードゲームって説明聞いてもいまいち理解できなかったのに、実際にプレイするとすぐに飲み込めるから不思議!

※本連載「インディーゲームの小棚」は、4Gamerで連載されている「インディーズゲームの小部屋」のタイトルとコンセプトを真似たものですが、「インディーズゲームの小部屋」との関連は(私が一方的にファンであるというだけで)一切ございません。

4Gamer - インディーズゲームの小部屋
http://www.4gamer.net/words/001/W00176/
『Cargo Commander』の主人公は、数千人いるという「Cargo Commander」の1人だ。彼らの仕事は宇宙に遺棄されたカーゴ(貨物コンテナ)を探索して物資を拾い集めること。そんな主人公の目的は、収集した物資で資金を得、家族の待つ家に帰ることだ。「物資を拾い集める」と言っても、『Minecraft』のようなクラフト要素があるわけではない。重要なのは、とにかくひとつでも多くのカーゴを歩きまわり、より多くの物資を得ること。

Cargo Commanderは、黙って任務を遂行すればよいのだ。愛しき家族の元に戻る日を夢見て、カーゴ漁りをするだけの1日が今日も始まる。

哀愁漂う本作のメインテーマ「I Surely Hope」。ベースカーゴでは常時、この曲が流れているので強く印象に残る。


操作はWSADで移動、スペースキーでジャンプ、マウスで照準移動、マウス左ボタンで射撃、Rでリロードといった馴染みのもの。Xbox 360のゲームパッドに対応しているが、操作の最適化はいまひとつで、デフォルト設定であるマウスとキーボードでの操作のほうが快適だと思われる。なお、筆者はXbox 360パッドでプレイしている。
「C」というマークのついた青白い光を放つ箱を集めるのが目的だ
ゲームは本拠地とも言うべきベースカーゴから始まる。ベースカーゴ中央右側にある端末を操作すると、どこからともなくカーゴが引き寄せられてくるので、そのカーゴを探索し、物資を収集さえすればいい。Cargo Commanderの仕事に難しいことは何ひとつない。

カーゴは時間経過で次から次へと押し寄せてくるので、好きなカーゴを自分の好きなタイミングで回ればよい。ただし、一定時間が過ぎるとワームホールが発生し、警告アラームとともにカーゴはベースカーゴから切り離されてしまう。窒息死を避けるためにも(Cargo Commanderは、宇宙服を着ているわけでもないのに宇宙空間に投げ出されても即死はしない)、急いでベースカーゴに戻らなければならない。したがって探索と探索切り上げのさじ加減が重要である。
警告灯が点滅してアラームが鳴リ始めたら退散しよう
カーゴは端から順にワームホールに吸い込まれていく
ベースカーゴに戻ったら、再度カーゴを引き寄せ、カーゴ漁りにくり出そう。基本はこの繰り返しである。

ただし、カーゴには以下に挙げるようなそれぞれ異なった特色があり、闇雲に突き進むと足をすくわれてしまうかもしれず、注意が必要だ。なお、カーゴは自動生成されるため、どのような構造になっているかも想像がつかず、刺激的なプレイを楽しめる*1

  • 巨大なため、深部まで侵入すると簡単には出られない
  • 仕掛けが満載
  • 小型の敵がひしめいている
  • 無重力
  • 常時、ゆっくりと回転しているため、重力方向が流動的に変化する

*1 ただし、これは初めてそのカーゴを訪れたときに限る

カーゴにはホラーゲームよろしく、ほかのCargo Commanderの成れの果て(Mutant)が敵として出現する。振り切れない速度ではないものの、執拗にこちらを追いかけては危害を加えてくるので、手持ちの武器で対処したい。武器は威力は低めながら弾数の多いNailgunや、着弾後マウス左ボタン押しっぱなしで任意起爆できるMagbombsなど4種類が存在。同時に2種類まで持ち歩くことができる。また、マウス右ボタンで近接攻撃も可能だ。
なかには撃つと爆発してしまうような厄介な敵も存在する
この敵ばかりいるようなカーゴも時折登場する
カーゴ内にあるロッカーの前でEを押すと、武器や弾薬を入手できる
また、Cargo Commanderの左腕は変形型ドリルが装着されており、これを使うことで内外問わずカーゴの壁に穴を開けることができる。ドリルはマウス右ボタンを押しっぱなしにすることで使え、一定時間使用することで壁を1枚取り除くことが可能。カーゴ内でショートカットを作ったり、カーゴの外壁をぶち破って侵入、あるいは脱出したりと用途は幅広く、ドリルは本作において重要なデバイスとなっている。
ドリルを駆使して、自由に道を切り開いていくのが本作の醍醐味のひとつ
また、武器やドリル、プレイヤーキャラクターの性能は、ベースカーゴ中段右側にある端末から強化可能。強化には敵が落とす赤い帽子(CAP)がいくつか必要となるので、敵を避けるだけでなく、ある程度の数の敵を倒して装備を整えていく必要がある。
ベースカーゴの右上の部屋には、スピードアップ効果のあるコーヒーが置いてある
マグカップにあしらわれたハートマークが愛らしい
さて本作でいちばん重要な要素をまだ紹介していなかったので、それを紹介して今回は終わりにしたい。

『Cargo Commander』では、ローグライクのようにステージ(Sectorと呼ばれる)が自動生成されるのだが、そのステージ生成方法がユニークだ。ステージを生成するときは、ベースカーゴ中央左側にある端末からSector名を入力する。同じSector名なら必ず同じマップ構成であるし、ほかのプレイヤーが同様のSectorを訪れれば、やはりまったく同じ構成のマップでプレイすることができる。また、端末からはそのSectorでのスコアランキングを見られるようになっており、プレイヤー間の競争を促すような仕掛けも盛り込まれている。
自身のスコアが1位になっているSectorでは、キャラクターが王冠を被った状態で表示される
発売からひと月経たずに75%OFFになるという不名誉な実績があるが、決して退屈なゲームではない。単純なシステムながら、なぜか何度も挑戦したくなってしまう不思議な魅力を持った1本なのでぜひともプレイしてみてほしい(特に先日のDigital Tribe Groupee Bundleで入手しつつも積んでいる人)。本作はSteamとMac App Storeで配信されており、Steam版はSteamのほか、GamersGate、Green Man Gamingなどでも販売されている。価格は$9.99。

『Cargo Commander』公式サイト
http://playcargocommander.com/
Steam - 『Cargo Commander』
http://store.steampowered.com/app/220460/
Mac App Store - 『Cargo Commander』
https://itunes.apple.com/us/app/cargo-commander/id579670165?mt=12

『ファタモルガーナの館』オーケストラアレンジ曲が決定

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先日より告知されていた『ファタモルガーナの館』のオーケストラアレンジ企画*1。ユーザー投票によりアレンジされる楽曲が決定した。
*1 同作で作曲に携わった1人、守屋昂生氏が収録楽曲の一部をオーケストラ調にメドレーアレンジをするというもの。守屋氏のツイートが発端だったのだが、最終的にはアレンジ楽曲7つをプレイヤー投票で決定するという『ファタモルガーナの館』の公式企画となった。

『ファタモルガーナの館』とのコラボを含んだ企画のお知らせ
http://nydgamer.blogspot.jp/2013/01/blog-post_28.html

オーケストラアレンジが決定した7曲

投票によってアレンジが決まったのは、以下の7曲。『ファタモルガーナの館』のエクストラメニュー音楽館での収録番号も併載しておく。
  1. Ephemera(1章より。音楽館No.4)
  2. Fecha me(2章より。音楽館No.22)
  3. Ciao carina(3章より。音楽館No.23)
  4. Giselle(4章以降より。音楽館No.61)
  5. Cicio(4章以降より。音楽館No.1)
  6. They are crying(4章以降より。音楽館No.47)
  7. The house in Fata morgana(4章以降より。音楽館No.1)
サークル代表の縹氏によると、GiselleとCicioの2曲は人気が高かったそうだ。かく言う私もこの2曲に投票している。
『ファタモルガーナの館』には4名の作曲者が参加しているが、選定された曲は作曲家がバラけた様子で、これを守屋氏がどのようにアレンジし、楽曲たちのどのような表情を見せてくれるのかに期待したい。
上記のように縹氏が好きだというFabula escritaは残念ながら選ばれなかったが、この曲と選定曲の1つ、Fecha meの関係は興味深いので参考となるリンクを貼っておく。

※ただし、以下のリンク先にある縹氏の一連のツイートは『ファタモルガーナの館』ネタバレTwitterアカウント宛に投稿されたものなので、クリア済みプレイヤー以外は閲覧を避けてほしい
https://twitter.com/hanadakeika/status/301310184356212737
https://twitter.com/hanadakeika/status/301309630108278785
体験版のクリア特典で閲覧できた音楽館は、各曲に日本語のサブタイトルがついていたのだが
製品版ではサブタイトルがなくなってしまったのが少々残念
私が投票した以下の曲もオススメ。
  1. Tarantula(1章より。音楽館No.10)
  2. Fecha me(2章より。音楽館No.22)
  3. dira "MINCHIA!"(3章より。音楽館No.29)
  4. The house in Fata morgana(4章以降より。音楽館No.1)
  5. Sanctus(4章以降より。音楽館No.40)
  6. Cicio(4章以降より。音楽館No.1)
  7. Giselle(4章以降より。音楽館No.61)
7曲選ぶにあたっては、曲の好みももちろんのこと、別アレンジバージョンを聴いてみたいという気持ちや楽曲が使用されたシーンに対する思い入れなども含まれているので、単なる私の音楽的好みというわけでもなかったりする(し、そもそも7曲だけ選定するというのに難儀した)。特に本作をクリア済みの方ならわかると思うのだが、1章からTarantula、2章でFecha me、3章でdira "MINCHIA!"あたりを選んでいるのは、露骨に楽曲の利用されたシーンに引きずられている気がしないでもない。

個人的にはトレーラーでも使われていた本作のメインテーマ、The house in Fata morganaが選出されるかどうか気になっていたので、選ばれてホッとしている。楽曲はもちろん、歌詞もこのうえなくよいのだ。

曲順や公開タイミングについてはまだアナウンスがないものの、『ファタモルガーナの館』公式サイトで追って情報が公開されるものと思われる。

『ファタモルガーナの館』公式サイト
http://novect.net
『ファタモルガーナの館』公式サイト - ファタモルオーケストラ&アンケート企画
※応募受付はすでに終了している

同人ノベルゲーム『Bの話』に無料化の話が浮上

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『Bの話』というゲームが無料化するかもしれない、という話がTLに流れてきたので簡単にまとめてみる。

『Bの話』について

『Bの話』は、サークルDEBUG FREAK制作のノベルゲーム。ミステリー研究部所属の男子高生が主役の、犯人当てに主眼を置いた「人の死なないミステリ」だそうだ。2011年夏のコミックマーケット80で製品版をリリース、翌2012年夏のコミックマーケット82で『Bの話完結編』をリリースしている。なお、DLSiteでの販売価格はいずれも945円。

私が『Bの話』を知ったのは、「おすすめ同人紹介」というサイトの「おすすめ!同人ゲーム・オブ・ザ・イヤー2012 for Novel and ADV」なる企画。本作は、この企画で以下の3つの部門にノミネートされている。

  • 助演女優部門
  • 脚本部門
  • ロジック部門

おすすめ同人紹介 - おすすめ!同人ゲーム・オブ・ザ・イヤー2012 for Novel and ADV
http://southerncross.sakura.ne.jp/of_the_Year/2012.htm

特に脚本部門とロジック部門には、本ブログでも取り扱ったことのある『LOOT』もノミネートされているということもあり、とても気になっていた作品である。絵柄はやや癖があり、人を選ぶかもしれないが、個人的には物語とそこに備えられたロジック――どうやら「B」というのにもしっかりとした意味があるらしい、そこに興味を持っている作品である。

レビュー『LOOT』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/09/loot.html

無料化キャンペーンについて

無料化の流れは極めて単純で、以下の条件を満たせばよい。

  • 『Bの話』の体験版をプレイした人が
  • 「#Bの話 #無料化キャンペーン」とハッシュタグをつけて感想等をツイートし
  • 該当するツイートが100を超えれば無料化となる

開発のDEBUG FREAKの一連のツイートも貼っておく。


気になっていたゲームなので無料化キャンペーンはうれしい。と言っても、私はまだプレイしておらず、参加することも『Bの話』を強くオススメすることもできないのが残念ではある。すでにプレイ済みで製品版の購入を考えている人(あるいは購入を迷っている人)やこれからプレイしようと思っている人は、キャンペーンへの参加を検討してはいかがだろうか。

デモ版は公式サイトからダウンロードできるほか、DLSiteからもダウンロードが可能だ。私が試してみた感じでは、公式サイトからダウンロードしたデモ版は正常に解凍できなかったので、DLSiteからのダウンロードをオススメする。
2013年2月16日追記
公式サイトからデモ版が正しくダウンロードできないことについて、開発のDEBUG FREAKに問い合わせたところ、うまくアップできていなかったようで再アップしていただいた。現在は公式サイトからも正常なファイルをダウンロードできるようになっている

『Bの話』公式サイト
http://www.debugfreak.com/
DLSite - 『Bの話』
http://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ105293.html

『Super Chain Crusher Horizon』のスコアコンペが開催中

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タイミングを逸してしまったのだが、ハイパーワイドウィンドウ横スクロールシューティングゲーム『Super Chain Crusher Horizon』が、賞品つきのハイスコアコンペティション(以下、スコアコンペ)を開催している。

『Super Chain Crusher Horizon』とは

本作は3200*800ドットという規格外の横幅を持った、横スクロールタイプのシューティングゲーム。開発は日本のマインドウェアが行なっている。

画面サイズが最大の特徴であるのは言うまでもないが、システムも一風変わっている。まず、2機あるプレイヤー機のうち、デフォルトにあたる機体では弾を連射できない(画面内に弾が表示されてるうちは次弾を撃てない)。その代わりに敵を撃破した際の爆発でほかの敵を攻撃でき、誘爆に次ぐ誘爆で敵を一気に殲滅できるという特徴を持っている。そこから生まれる、さながらパズルゲームの連鎖のような爽快感が大きなウリである。

敵を倒した際に生じる爆発は、弾を撃つ前にチャージしたゲージ量(画面下部に表示される)に依存する。このため、弾をなるべく長くチャージして、敵を画面内にたくさん表示させた状態で倒すというのが基本的に重要だ。一般的な横スクロールシューティングとは異なり、画面左端に敵が到達しても敵が画面外へと消えることはなく、そのまま左端の壁と同化するようになっており、さらに画面左端にプレイヤー機が触れれば即ゲームオーバーとなってしまうため、敵と弾をうまく貯めこむプレイングをしつつも、状況を的確に判断して敵を倒していかなければならない、というバランスに仕上がっている。

ちなみに私も当初勘違いしていたのだが、デュアルモニタ推奨ゲームであってデュアルモニタ限定ゲームではない。モニタがひとつの場合は、解像度に合わせて画面サイズが自動的に縮小表示されるようになっているので、デュアルモニタ環境でない人も心配はいらない。

『Super Chain Crusher Horizon』公式サイト
http://pinball.co.jp/games/SCCH/
『Super Chain Crusher Horizon』公式サイト - スコアコンペ
http://pinball.co.jp/SCCH/

スコアコンペについて

今回のスコアコンペは、『Super Chain Crusher Horizon』の開発であるマインドウェア、そして『シューティングゲームサイド*1』の編集部による共同開催。詳細は先にリンクを貼った公式サイトを確認してもらうとして、スコアコンペについて重要なポイントをザッとまとめておく。
  • スコア集計対象となるモードは、MAIN GAME
  • 順位に応じて賞品が進呈*2
*1 マイクロマガジン社発刊のシューティングゲーム専門誌。最新刊である『シューティングゲーム Vol.6』では、『Super Chain Crusher Horizon』が6Pに渡って紹介されている

ゲームサイド公式サイト - シューティングゲームサイド Vol.6
http://gameside.jp/sgs/sgs6/

*2 厳密には、公式サイトに「順位に応じて」という記述はないが、スコアコンペなので間違いないだろう

なお、賞品の詳細は不明だが、マインドウェア代表のMicky Albert氏がTwitterで以下のように述べている。
賞品数はかなりの量が用意されているようで、「ほぼすべての参加者に賞品が行き渡ると思われるほど膨大」と公式サイトには記されている。

応募方法

  1. 『Super Chain Crusher Horizon』に採用されているオンラインリーダーボードGamers Universeにユーザー登録(登録にはメールアドレスが必要)
  2. タイトル画面LOGINの項目から、登録したユーザーでログイン
  3. MAIN GAMEをプレイし、スコアをGamers Universeに登録(登録は自動)
  4. 以下の情報を記載し、封書で送付
  • 郵便番号
  • 住所
  • 氏名
  • Gamers Univers登録アカウント名
  • Gamers Univers登録メールアドレス
宛先は以下の通りで、締切は2013年4月10日必着。

〒104-0041東京都中央区新富1-3-7 ヨドコウビル
㈱マイクロマガジン社 ゲームサイド編集部「SCCH」係

注意事項

一度、封書にて応募すると、以降はGamers Universeに登録されているスコアを参照してスコア集計が行われる。このため、スコア更新するたびに応募する必要はない。ただし、当然ながらプレイの際にはGamers Universeへのログインは必須となる(とはいえ、一度ログインしていれば、以降はゲーム起動時に自動ログインとなる)。

その他

デュアルモニタ推奨ゲームということもあってか、スコアコンペとは別にPC環境自慢コンテストも行なっている。PCゲーム環境の写真を添付して、住所と氏名を記入のうえで以下の宛先にメールすればよい。こちらはスコアコンペと異なり、メールでの応募が可能となっている。

gs@gameside.jp

なお、PC環境自慢コンテストは、マインドウェアか『ショーティングゲームサイド』編集部のいずれかが「ユニーク!」や「おもしろい!」と感じたすべての応募者に賞品が進呈されるとのこと。

封書を使っての応募というのはやや面倒ではあるのだが、賞品もたくさん用意されているということだし、誰でも気軽に参加できるようなので参加してみてはいかがだろうか。私も参加したいと思う。

『Super Chain Crusher Horizon』の購入と楽しみ方

スコアコンペからは外れてしまうが、本作について周辺情報を少しばかり。

購入と長期セールについて

本作は以下の3つのデジタルディストリビューションサービスより購入が可能。公式サイトにはデモ版も用意されているので、先にデモ版で感触を確かめておくといいかもしれない。

Desura - 『Super Chain Crusher Horizon』
http://www.desura.com/games/super-chain-crusher-horizon
PLAYISM - 『Super Chain Crusher Horizon
http://www.playism.jp/games/superchaincrusher/
Green Man Gaming - 『Super Chain Crusher Horizon
http://www.greenmangaming.com/s/jp/en/pc/games/shooter/super-chain-crusher-horizon/

現在はスコアコンペ開催に併せて2013年4月10日まで、20%OFFの値引き価格で販売されている(記事執筆段階ではGreen Man Gamingのみ、『Super Chain Crusher Horizon』の値引きを行なっていない)。

MODを使った遊び方

『Super Chain Crusher Horizon』はMODをサポートしており、私のような素人でも部分的ではあるが、簡単にグラフィックをいじったりできる。ニコニコ動画には以下に貼るダライアスMODのほか、デススマイルズMODの動画も投稿されている。


一例として私が適当に作ったMODでのプレイ画像も貼っておく。手頃なフリー素材が見当たらなかったので、日本でかなり有名であろうフリー素材「ぼっさん」を爆発エフェクトと差し替えてみたが、お気に入りのキャラクターなどで萌え萌えさせることも可能だろう。
誘爆によって、次から次へとぼっさんが登場するのが楽しい
画面いっぱいに広がるぼっさん
なお、作成にあたって『Super Chain Crusher Horizon』公式サイトと以下のサイトを参考にさせていただいた。

人生に疲れた男のblog - Super Chain Crusher Horizonのグラフィック書き換え
http://d.hatena.ne.jp/BCC/20120930

インディーゲームの小棚:Shelf#04『ATUM』

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「あ、これはブログで詳しく書きたいゲームだな」と思ってTwitterでのツイートは控えめにしたのに、結局、ブログでは触れることなく終わってしまうという失敗が多い筆者がお送りする「インディーゲームの小棚」第4回は、オランダの学生作品『ATUM』を紹介する。本作は、ゲーム外からゲームに干渉するという未来っぽいコンセプトを持った2Dプラットフォーマー。そんな『ATUM』も、昨年秋にあとで紹介しようと思って、最終的にはほっぽり出してしまったタイトルのひとつ。今年はこういうタイトルを減らしていきたい。

※本連載「インディーゲームの小棚」は、4Gamerで連載されている「インディーズゲームの小部屋」のタイトルとコンセプトを真似たものですが、「インディーズゲームの小部屋」との関連は(私が一方的にファンであるというだけで)一切ございません。

4Gamer - インディーズゲームの小部屋
http://www.4gamer.net/words/001/W00176/

『ATUM』は2Dプラットフォーマーだと説明したのだが、主人公の一人称視点でゲームが始まる。自室らしきところに入ってきた主人公は、部屋にあるPCの前へと移動し、そのPCでゲームをプレイするのである。つまり、本作はゲームをプレイする人になるゲームなのだ*1

*1 イギリスのゲームブログメディアRock, Paper, Shotgunでは、本作を「First-Person Platformer-er(一人称視点のプラットフォーマープレイゲーム)」と形容している

Rock, Paper, Shotgun - First-Person Platformer-er: Atum
http://www.rockpapershotgun.com/2012/10/26/first-person-platformer-er-atum/

世界観は、多数の古典SF作品から影響を受けているとのことで、開発は『ブレードランナー(原題:Blade runner)*2』やPhilip K. Dick'sの『火星のタイム・スリップ(原題:Martian Time-Slip)』などを挙げている。

*2 『ブレードランナー』自体も、Philip K. Dick'sの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?(原題:Do Androids Dream of Electric Sheep?)』が元になっており、かなり彼の作品に強い思い入れがあるのかもしれない

WSADかカーソルキーでキャラクターを移動、上要素(W or ↑)かスペースキーでジャンプというのが基本的な操作。本作のゲームプレイがユニークなのは、マウス操作をすることでPC内の2Dゲームをプレイしている(一人称視点の)主人公の視点を動かし、PCの周囲にあるオブジェクトに触ったりできることだ。
視点を下げれば、キーボードが見える
操作を促すように、キーボードのWSADのキーが赤く塗ってある
周囲を見渡すと、部屋にはさまざまなものが置かれている
このなかから使えそうなものを探そう
本作は、実はキーボードによる2Dキャラクターの操作だけではほとんど先に進めないようになっている。そこでどうやって道を切り開くかというと、先ほど説明したマウス操作で一人称視点の主人公を動かし、各種オブジェクトを使って2Dゲームへと干渉して、2Dキャラクターが先に進めるように手助けするのだ。この文章だけではなかなか理解が難しいと思うので、以下に具体例を挙げよう。

2Dキャラクターを移動させてしばらく右へと進んでいくと、暗闇があって前へと進めない場所にぶち当たる。ここは暗くてよく見えないが、可燃性物質で満たされたドラム缶が進行ルート上に積み上げられており、キャラクターの行く手を遮っているのだ。

そこで一人称視点の主人公を操作して、すぐそばにあるライターを手に取ってみよう(対象のオブジェクトに視点を合わせた状態でマウス左ボタンで手に取る。マウス右ボタンで手にしたオブジェクトを手放す)。すると、ライターの火で2Dゲーム内の暗闇を照らすことができるのだ。勘のいい読者の方々ならお気づきかと思うが、ライターを持ったまま視点を移動させ、あとは邪魔なドラム缶に火をつけて道を切り開けばいい。
ライターを手にして、2Dゲームのドラム缶のそばへとライターを持っていけばいい
発電機のような機械と、眼前を閉ざすシャッター
ゲーム外のオブジェクトを使って、ゲーム内に干渉するというのはかなり荒唐無稽な話なのだが、『ATUM』のこのプレイ感覚は実に奇妙で、今まで味わったことのない楽しさを覚える。基本的にはこの仕組みを使って進行ルートを確保し、先へと進んでいけばよい。

ゲーム自体は短く、クリアまで20分程度、時間がかかっても30分くらいだと思う。パズルの質も決して高いわけではない。干渉に使えるオブジェクトも少なめで、パズルとしての難易度もかなり単純な部類に入る。それでもあまり類を見ないタイプのゲームプレイは非常に魅力的で、目新しいものが好きな人にはぜひともプレイしてほしいと感じた(のが去年の秋で、こうして紹介は遅れてしまったわけだが)。なお、本作はIndependent Game Festival 2012に提出されており、Student ShowcaseにてFinalistとなっている。

IGF公式サイト - 2013 Independent Games Festival Finalists
http://www.igf.com/02finalists.html
IGF公式サイト - 『ATUM』
http://www.igf.com/php-bin/entry2013.php?id=1278
まったくの余談だが、よくある手法ながこのゲームの終わり方が筆者は好きである。また、できることならさらに拡充した内容の本作をプレイしてみたいところだ。

『ATUM』は公式サイトで無料公開されている。ダウンロード版はない模様で、ブラウザ上からのみプレイが可能だ(リンク先にあるPlay Atumからプレイできる)。プレイの際にはUnity Pluginが必須となる。

『ATUM』公式サイト
http://atumgame.com/

インディーゲームをSteamで配信する意義について

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※当初、「蒸気に覆われた聖域は、PCゲームのディストピアか? ――Steamとインディーゲームの今後――」という記事タイトルであったが、単にインパクトを重視しただけの内容の伴わいタイトルになっていたため、改題した

Steamと言えば、海外産のPCゲームをプレイする人で知らない人はいない、と言っても過言ではなかろう。今回はそんなSteamについてちょっとだけ書いてみたい。

Steam
http://store.steampowered.com/

Steamについて

PCゲーム界の巨人たるValveが創りあげたサービスSteamは、数多あるPCゲームダウンロード販売サービスにおいて事実上の一強と言って差し支えない存在だ。コンシューマゲーム界の巨人Electronic Artsが投じたOrigin(旧EA Store )、かつて時代を彩った名作やレジェンド級のタイトルを幅広く扱うGOG.com といったように先駆者Steamの成功を追うような類似のサービスもあるものの、やはりそこに肩を並べるほどの存在になったとは言いがたい。

むしろUbisoft EntertainmentのUplayや、露骨なSteam離脱を試みたOriginといった存在が、ゲームファンから大きな反発を受けているという印象さえある。

もっとも、これはOriginやUplayの仕組みがSteamの持つそれと違って、成熟していない点が大きいだろう。言ってしまえば、Originは単なる購入用サービスだし、Uplayに至ってはSteamでの認証に加えて、さらにUplayでの認証が必要となる余計なお世話に成り下がっている。なかでもUplay側のサーバトラブルによってSteam側までも被害を被るといった出来事は非常にクリティカルな問題であり、反発を招くのは仕方のないことであろう。

Origin
http://store.origin.com/
GOG.com 
http://www.gog.com/
Uplay
http://uplay.ubi.com/

Steamで配信する意義

ではSteamで配信する際のメリットとはいったいなんであろうか。今回は、たびたび語られているユーザー視点の話ではなく、開発者視点での話をメインにして考えてみたい。話を伺ったのは、マインドウェアのMicky Albert氏。氏はマインドウェアの代表取締役で、同社は『Super Chain Crusher Horizon』を手がけた開発会社である。

Albert氏は、現在のSteamの圧倒的な状況について、以下の3点を指摘した。
  1. ビッグタイトル
  2. オンラインランキングや実績
  3. アクティベーション
1は言うまでもないだろう。何百万本というセールスを期待してリリースされる、いわゆるAAAタイトルと呼ばれるようなPCゲームの存在である。これらのほとんどはSteamで配信される。Electronic Artsの『Battle Field 3』、それに『Starcraft』シリーズや『Diablo』シリーズといったBlizzard Entertainmentの作品群などの例外もあるとはいえ、やはりSteamでリリースされないビッグタイトルはとても少ない。

有力タイトルがたくさん集まれば、そこにゲームファンが集まるのは必然の流れである。大きなタイトルに足並みを揃えるようにややこぶりなタイトルも集まってくる。我々ユーザーから見てもこの点は理解しやすい。

第2に挙げた要素は、プレイヤーと彼らが成すコミュニティを囲い込むのに効果的だ。フレンドやギフトといったプレイヤー間の動きを活性化させる機能もこれらに含めてよいだろう。味気ないSteam実績やメッセージの送りづらさは、MicrosoftのXbox LIVEに劣ると私自身は感じているが、コミュニティ管理にスクリーンショットの投稿、さらにSteam Workshopといったように優れた面も多数存在し、一概にどちらが優れているとは言えないだろう。また、Albert氏は「実績やオンラインランキング機能をしっかりと抑えている唯一のPCマーケットがSteamである」ことも強調している。

上記2点は、ユーザー数に大きく影響を与える部分で、開発にとって大きな購買が見込めるというものである。続く第3の要素アクティベーション、つまりプロテクトに関する問題は、もっと開発者寄りのメリットである。

ゲームデータのコピー問題は今になって始まった話ではないが、「CDキーやDRMとアクティベーションによる合わせ技での強固なコピープロテクトは必須」とAlbert氏は語る。当然、GamersGateやGreen Man GamingなどのSteam以外のサービスも、これらの事情を問題視している。しかし、配信サービスを行なっている彼らとてDRMは外部発注となってしまうため、別途コストがかかってしまう。結果、独自にDRMをかけてもらうとなると、開発側の取り分が15%程度減ってしまう*1のだそうだ。これは中東の販売サイトなどでも同様で、そもそも単価の安いインディーゲームではなかなか難しく、コピーの餌食にならざるを得ない構造に陥っているとAlbert氏は話す。

GamersGate
http://www.gamersgate.com/
Green Man Gaming
http://www.greenmangaming.com/

*1 インディーゲームのダウンロード販売における配信側の取り分は、以下の記事が参考になるだろう。だいたい20~30%くらいだ。日本のPLAYISMも、代表のIbai Ameztoy氏がインタビューにて30%を自社の利益としてもらっていることを明かしている

The Indie Mine - The Indie Distribution Services Roundup
http://theindiemine.com/indie-distribution-services-roundup/
PLAYISM
http://www.playism.jp/
アプリ★ゲット - PLAYISM代表、イバイ・アメストイ氏特別インタビュー【前編】グローバル化するゲーム業界でカギとなる「ローカライズ」という仕事
http://appget.com/c/news/6422/ivai1/

「ならば開発が自前でプロテクトをかければよいだろう」と思う方もいると想像するが、Albert氏によると「セキュリティに関連する技術とゲームを作る技術とはまったく異なっていて、例えるなら野球とけん玉ほどの差がある」のだそうで、そんなに簡単な問題ではないらしい。Steamならば、よそよりも簡単にこの問題の解決を図ることができるのだ。

以上のようにValveが築き上げたSteamは、とても強固な構造をしているのである。

Steamで爆発的に伸びるセールス

ではSteamでリリースすると、売上にどの程度の影響があるのだろうか。以下では、Steamで配信したタイトルの売上の例を2つ挙げる。これらはいずれも極端な例かもしれないし、いかんせん具体例として数も少ないのだが、インディーゲームにおいても(インディーゲームに限定する必要はないのだが)Steamで売ることの意義は伝わるかと思う。

2011年リリースの『Atom Zombie Smasher』

ほかのサービスと比較して、Steamでの売上が圧倒的なことがわかる『Atom Zombie Smasher』の2011年12月の売上データ。当時の本作は、Steamの大型セールとともに行われた石炭集めのイベント対象になっていたため、売上が伸びている面もあるだろう。とはいえ、それだけで説明するにはあまりに大きすぎる差である。

  • Steam: 96,000
  • BMT Micro (direct sales*2): 1,800
  • GamersGate: 155
  • Direct2Drive: 87
  • Impulse: 85
  • Ubuntu Store: 48
  • Desura*: 24
    *shorter sales period.
*2 公式サイトでの直販だろうか? 現在、『Atom Zombie Smasher』の公式サイトでの購入はHumble Store経由での購入となっており、いまいち意味が捉えられなかった

『Atom Zombie Smasher』公式サイト
http://blendogames.com/atomzombiesmasher/
The Indie Game Magazine - STEAM MADE UP 96% OF ‘ATOM ZOMBIE SMASHER’ SALES IN DECEMBER 2011
http://www.indiegamemag.com/steam-made-up-96-of-atom-zombie-smasher-sales-in-december-2011/

2011年リリースの『Blocks That Matter』

本作はXbox L Indie GamesとしてXbox 360向けにもリリースされており、ゲームコンテストDream.Build.Play 2011 Challengeで大賞(grand prize)という栄誉とともに賞金$40,000を手にしている。しかし、売上本数はPC版(Win/ Mac / Linux)のほうがはるかに多い。また、詳細な数字は明かされていないものの、PC版の売上トップ3は以下のようになっている。
  1. Steam
  2. Indievania
  3. Desura
『Blocks That Matter』公式サイト
http://www.swingswingsubmarine.com/games/blocks-that-matter/
The Indie Game Magazine - STATS THAT MATTER: SWING SWING SUBMARINE SHARES SALES CHARTS
http://www.indiegamemag.com/stats-that-matter-swing-swing-submarine-shares-sales-charts/

脱Steamの可能性

私が個人的に好きなDesuraについては、Albert氏によると2012年夏頃のDesuraの会員数は20万に満たない程度、現在は25万人を超えたところまで来ているらしい。一方のSteamはと言えば、リアルタイムで400万人オーバー、ピーク時は600万を突破するほどの勢い*3のときもあり、その規模はDesuraの比ではない。

*3 Steam Stats参照のこと

Steam - Steam & Game Stats
http://store.steampowered.com/stats/
参考に記事執筆時のSteam Statsのスクリーンキャプチャを貼っておく
インディーゲーム専門のDesuraと、ジャンルを絞らずに様々なPCゲーム(当然インディーゲームも含む)が集うSteamとを比較するのもおかしな話ではあるのだが、やはりパイの差というものは歴然としている。仮にユーザー数をインディーゲームに限定したとしても、Steamのほうが圧倒的に有利な数となるのは否定できないだろう。そして、こういったユーザー数の差、そして先に挙げたような数々のSteamの優位が生み出すのは、言うまでもなく一党独裁である。具体的には、Steamが割引を勧めてきた場合に事実上断ることができない、価格設定も同様に好きにはできない、というようなことがあるのだとAlbert氏は語った。

Steam上のインディーゲームの受け皿といえば、2012年に始まったSteam Greenlightがある。とはいえ、本ブログの『LA-MULANA』のインタビューでも触れたようにGreenlightは不透明な部分が多く、その舞台に立てるのはほんの一握りでなのだ。

関連記事:
『LA-MULANA』開発者インタビュー 前編
http://nydgamer.blogspot.jp/2013/01/la-mulana.html

そういった状況でAlbert氏が投入したのが、Gamers Universeである。これは独自に開発されたオンラインランキングや実績、そしてプロテクトを備えた総合的なシステムのことだ。氏が手がけた『Super Chain Crusher Horizon』*4に搭載されているほか、すでに何社かとの契約も決まっているとのこと。今後、Desura IDでのログインも検討しているそうで、個人的に今後も注目していきたい。

*4 3200*800ドットというハイパー横長画面シューティング。デュアルモニタが推奨されているが、デュアルモニタでなくともプレイはできる。開発が公式にアップしているプレイ動画を貼っておく
以下が、開発より提供いただいたフルサイズ(3200*800)のスクリーンショット。


『Super Chain Crusher Horizon』公式サイト
http://pinball.co.jp/games/SCCH/

Steam一強の現状と、その背景にあるもの。ひょっとすると、インディーデベロッパの明日を照らすのはGreenlightではなく、Gamers Universeや未来に登場する同じようなシステムなのかもしれない。

Micky Albert氏のコメント

話を伺ったAlbert氏のコメントも併せて掲載する。
現状のユーザー数が誰の目にもわかるDesuraと現在アクセスしてるユーザー数が誰の目から見ても明らかなSteamを比較すると、いかにSteamが巨大な存在であるかがわかると思います。Green Man Gamingさんでは弊社ソフトウェアを取り扱っていただいており、ユーザー数も把握しているのですが、どうしても後発でクライアントもSteamと比較したら貧弱と言わざるを得ずユーザー数で圧倒的大差がついています。

アクティベーションやDRM

8bitパソコン、16bitパソコンの頃はプロテクト戦争が盛んでした。この頃、生産会社によってはコピープロテクトは無料。そうでない場合もディスク1枚あたり15円ほどで対応している会社がほとんどでした。当時のゲームソフトは7000円以上だいたいしていたので、現在の$10以下がほとんどゲームであるインディーズ市場においてはDRM代で15%が消えてしまっては大打撃、かといってDRMフリーでは商売あがったりになりかねません。もちろん、それでも売れるゲームはあるとは思いますが、大きく機会損失をしているのは間違いないところでしょう。

また、もっと大きな問題として「ソフトウェアは無料である」という認識を持つ人が増えてしまうことでしょう。iPhoneのApp Store等を見ると無料のゲームにも極端なクレームの付け方をする人を目にしますが、ニンテンドーDSのマジコン、ソーシャルゲームの登場、iPhoneやAndroidでの安価なゲーム、PCの安価ダウンロードタイトルが月日の流れに乗って登場してしまったこともあり、ダウンロードだけど販売しているゲームをコピーすることに全く抵抗がない人が相当数いて、年齢が若くなればなるほど、こういう人達が増えてしまっているということは、将来的にこの産業の衰退に繋がりかねないと危惧しています。

ダウンロード販売会社でDRMの種類を書いてる会社がありますが、これは辞めて欲しいところです。

このような問題があるなか、抜け穴はあるのかもしれないが、事実上ほとんどユーザーが正規ユーザーな状況になるSteamは非常に優秀といえるでしょう。

Micky Albertについて

マインドウェア(旧M.N.M Software)でMicky Albertの行ってきた仕事なのですが、デベロッパーであり、1988年~1997年までは自社でもゲームソフトをパッケージ販売していました。雑誌社周りからお店への営業、そしてもちろん私自身が監督をつとめ、時にはメインプログラマでしたから、パブリッシャ、デベロッパ、いずれの経験も相当期間あります。

キャリアの開始は中学2年の秋に日本ファルコムという会社でプログラマのアルバイトなのですが、この当時にファルコムは半分はパソコンショップでした。今でこそ上場企業ですが、当時はまだ中小企業で、社長を含め誰でもレジ担当を行っており私も経験があります。開発業務としてもゲームのみならず、家電のファームウェア、F-1チームに会社として空力エンジニアを派遣し、ウェブをすべて任されていました(何度かチャンピオンになった鼻の曲がった人がオーナーの青い車を走らせていたチームです)。また、90年代後半より実機のピンボールの開発、リース、販売、ピンボールのリースによりゲームセンターとのつながりが深くなったことでいくつかのタイトルに関してはゲーム基盤の卸も行っていました。

そして、近年では任天堂から発売された『カタチのゲーム まるぼうしかく』、『燃やすパズル フレイムテイル』を開発、3200*800ドットという、PC用に史上最大の解像度を誇る横スクロールシューティングゲーム『Super Chain Crusher Horizon』を発売しました。

今回の私のコメントは、単に開発のみを行ってきた者としての視点ではなく、様々な角度から長期間にわたりゲーム産業に携わってきた者のコメントして受け止めていただければと思います。
なお、氏は「多くのユーザーの方に現状のマーケットを深く理解していただき、ゲームと向き合う時間が少しでも楽しい時間になってくれれば幸いです」とコメントを結んでいる。

マインドウェア公式サイト

http://pinball.co.jp/

インディーゲームの小棚:Shelf#05『孤高のアオイロ』

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だんだん暖かくなってくるのを感じている矢先にハードめな風邪に罹ってしまった筆者がお送りする「インディーゲームの小棚」第5回は、時間止めの不思議な能力を使って山を越えていくアクションパズルゲーム『孤高のアオイロ(体験版)』を紹介する。そういえばそろそろ登山をしたくなってくる季節ですね。


※本連載「インディーゲームの小棚」は、4Gamerで連載されている「インディーズゲームの小部屋」のタイトルとコンセプトを真似たものですが、「インディーズゲームの小部屋」との関連は(私が一方的にファンであるというだけで)一切ございません。

4Gamer - インディーズゲームの小部屋
http://www.4gamer.net/words/001/W00176/

本作の開発はオリジナルゲーム制作サークル、ほしさらい。同サークルは、チャレヒト氏とせせき氏の2人で構成されているサークルだが、それぞれが異なったゲームを作るというちょっと変わった開発スタイルを採っている。今回紹介する『孤高のアオイロ』は、せせき氏による作品である。

舞台は科学が発達した世界。エネルギー問題により、クシノ連合とヨリノという2国が争っているという設定だ。ストーリーは主人公の少女アオが自身の「作者」を探して山を越え、クシノ連合へと北上するというもの。正体不明のアオと、「作者」という言葉の意味、作中で時折語られる「兵器」という名の存在、行動を共にすることになる青年テンと謎を呼ぶストーリーだが、現在リリースされているのは体験版のため、すべてが語られるわけではない。公式サイトの掲示板では「今後、体験版を数度リリースしてから完成版となりそうだ」という旨をせせき氏自身が語っている。

ほしさらい公式サイト - 立ち飲み屋ほしさらい
http://hosisarai.bbs.fc2.com/

カーソルキーで移動、↑でジャンプ、Zでアクション(ダッシュ、話しかける)と基本的な操作はシンプル。筆者はXbox 360パッドを使用して、キー配置を少しだけ調整しプレイした。アクション要素の強いゲームなのでゲームパッドでのプレイのほうがよいと思う。

ゲームはフィールドを探索しながらよじ登ったり、降りたり、あるときは飛び移ったりしながら先へと進んでいく2Dアクションパズル。壁面にしがみついて昇り降りすることができ、ジャンプでは辿りつけない高所へ登ったり、滑落死を防ぐため(あまり高いところから落ちるとゲームオーバー)に壁面をつたって降りるといったことが可能になっている。壁面は触れるだけで自動的にしがみつくので、とてもプレイしやすい。
足場の先端で↓を押すか、伏せ移動で近づけば自動的に壁面へと移動する
壁と反対方向のカーソルキーを押すとジャンプで飛び移れる
このとき、Zを押しているとさらに遠くへ跳べる
根幹部は極めてシンプルな『孤高のアオイロ』だが、フィールドを登り降りしつつ進んでいくのは実に心地がよい。プレイヤーの息が上がることこそないものの、まるで本当に山を登るかのような感覚が本作にはある。せせき氏はよっぽど山登りが好きなのではないかと思う。

本作を特徴づけるのがアオの使う「時間停止の能力」だ。と言っても体験版でプレイできる範囲では、時間を止めるために使う場面はほとんどない。実際にはこの能力が副次的に持つ「存在を反転させる能力」がメインとなる。
時計のエフェクトが発生した部分が、能力の効果範囲となる
能力はXで行使可能で、使うと青い小さな弾が発射される。弾が当たった場所から一定範囲内は時間が停止し、同時に色の鮮やかなオブジェクト(茂み、レンガの壁など)は存在が消失する。この能力があれば行く手を遮る壁を一時的に消し去り、先に進むことができる。また、「存在を反転させる能力」と言ったとおり、逆に存在しないものを実体化することも可能。能力で実体化できるものは、普段は半透明で表示されている。その場所に能力を行使して、実体化させれば新たに足場を作るようなことが可能になるのだ。ただし、能力の効果はあくまでも短時間。時間内にその場所を突破する必要があり、要求されるアクションの技量は少し高めとなっている。
←か→を押しながらCで壊れた方位磁針を見る
コンパスが指し示すのが進むべき方角だ
セーブは、イベントの発生する特定のポイントまで達すると自動でセーブされる(保存数は1)。セーブポイントまではそれなりの長さがあるのだが、ゲーム中盤からは自分の好きな場所にチェックポイントを設置することができるようになる。道中でZを押しながらCを押すとその場に石を積み上げて、以降はこれをチェックポイントにできるという仕組みだ。『スペランカー』並とは言わないまでも、とにかく滑落死の多いゲームなのでこれは非常に重要。チェックポイントはセーブポイント間に1つしか設置できないが、それがプレイをいっそう生々しいものにしており、自身で攻略しているという感覚が非常に強い。作品の持つフレーバーと合った、実にいいシステムだと思う。

冒頭でも述べたとおり、『孤高のアオイロ』はまだ体験版であり、現在は無料で公開されている(最終的に有料となるのか、フリーソフトとして公開されるのかは不明)。プレイ時間は3~5時間ほどだろう。

なお、『孤高のアオイロ』には難易度適正パッチが存在している。私はday3の正午あたりまで進めたが、あまりの難易度にこのパッチを適用してプレイした。初期バージョンの難易度はかなり高めなので、腕に自身がある方以外にはパッチを当ててプレイするのを推奨する(個人的な体感だと、パッチで2段階くらい難易度が下がる)。なお、公式ブログには「チェックポイントの再設置ができるようになる」と記載されていたのだが、私の環境ではチェックポイントの再設置ができないので、現在公開中のパッチでは未実装なのかもしれない。

ほしさらい日記 - 最近の報告
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忘れ去られた鉱山都市など、「山」というくくりがありながらも、
単調にならないようにロケーションには気を使っている印象
実際の風景を使った背景や鳥のさえずり、川のせせらぎといった環境音が織りなす空気感にも山登りのフレーバーをたくさん詰め込まれた『孤高のアオイロ』。アクションには不可欠なダッシュやジャンプの気持ちよさ、壁の昇り降りで得られるフィールドへの征服感、時間停止の能力で解くやりがいのあるパズルと、全体的に質の高いアクションパズルに仕上がっている。春を迎えて実際に山登りするまえに、本作で山登りの気持ちを味わってみてはいかがだろうか。

『孤高のアオイロ』公式サイト
http://hosisaraigame.web.fc2.com/game/sskgame/aoiro.html
ほしさらい公式サイト
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