深夜に女性の悲鳴で目を覚まして、恐る恐る家を出たものの、はしんと静まりかえる夜の帳が広がっていただけだった、という経験のある筆者がお送りする「インディーゲームの小棚」第7回は、日常に潜んでいそうな不気味な恐怖を描く短編ホラー『日常侵食ホラー つぐのひ(以下、つぐのひ)』を紹介する。ちなみに「気のせいでよかった」と胸を撫で下ろしたものの、心中に残ったモヤモヤは数日晴れなかったのは言うまでもない。
※本連載「インディーゲームの小棚」は、4Gamerで連載されている「インディーズゲームの小部屋」のタイトルとコンセプトを真似たものですが、「インディーズゲームの小部屋」との関連は(私が一方的にファンであるというだけで)一切ございません。
4Gamer - インディーズゲームの小部屋
http://www.4gamer.net/words/001/W00176/
開発はしあん氏。公式サイトによると本作のほかにもいくつかのゲームを手がけており、『つぐのひ』も含め、すべてのゲームはRPGツクール2000で製作されているようだ。
しあん氏の公式サイト I'm Cyan
http://imcyan.web.fc2.com/
「RPGツクール」と耳にすると、スーパーファミコン後期のようなドット絵を想像しがちだが、本作は実写ベースのグラフィックで、パッと見の印象はRPGツクール作品らしかぬものとなっている。なお、登場人物はのグラフィックには実写を使用したうえで目のあたりにぼかしっぽい処理を入れている。これがなんとも言えない風合いを醸し出しており、ホラーに相応しい怪しげな雰囲気を放っている。
「日常侵食ホラー」と題されているとおり、本作では普段のふとした隙に潜んでいそうな恐怖が描かれている。例えば、視界の隅で一瞬何かが動いた気がするだとか、帰宅したらなんとなく部屋の様子が違うような違和感を覚えた、といったようなものだ。霊感などを持ちださなくとも、誰にでもそういった経験のひとつやふたつはあるだろう。人によってはたくさんあるかもしれない。そして『つぐのひ』では、かような不安を煽る奇妙な現象が一日ずつ(つまり「つぎのひ」になるたびに)、主人公へと忍び寄っていくというストーリーを採っている。
操作は一風変わっているが、あえて説明するほど複雑なものではない。ノベルゲームと異なる独特の手触りを持っていて、ぜひともその部分も楽しんでほしいので、ここでは深く言及することを避けようと思う。
本作のプレイ時間は短く、第一話は5分程度、第二話は10分程度で終わる。しかも内容を話そうとすると、ほとんどネタバレになってしまうため、個人的にはあまり語りたくない。とは言っても、これでは紹介としてあまりにあっさりすぎるため、ひとつだけ付け加えておこう。
『つぐのひ』の持つ怖さは、マンガ『不安の種』*1のそれに近い。
両者で描かれている恐怖は、そのどれもが知らずのうちに身近に迫っているもので、触れてはいけないに決まっている嫌悪の塊である。それにもかかわらず数々の不気味な事象たちは、そこに確かな理由を持っていない。つまり、なぜそのような事象が起きているか想像することはできても、実際にどうであるかは確かめる術がないのである。結果的に我々が事象を回避することは不可能で、物語を知ってしまった瞬間に、我々は逃れられない不安の袋小路に追いやられてしまうのである。
『つぐのひ』も『不安の種』も根底に流れているのはどこまでも有機的な戦慄だ。いずれの作品も物語の受け手に漠然とした恐怖や不安を植え付けていくのは大きな共通点と言っていいだろう。
*1 中山昌亮によるホラー漫画シリーズ。秋田書店刊。2013年には実写映画が公開予定となっている。『不安の種+』の1巻はWeb上で試し読みができる。有名な「オチョナンさん」のエピソードもあるので、知らない人もこの機会に一読をオススメしたい。
ソク読み - 『不安の種+』 1巻
http://sokuyomi.jp/product/fuannotane_002/CO/1/
※試し読みは、リンク先の「試し読みする」から
実写を使ったビジュアルも素晴らしいが、特筆すべきは音響周りだろう。音声をベースにした心をざわつかせるSEが多数用いられており、プレイヤーの心理を不安で絡めとっていく。雑踏の音を意図的に消して無音を作るといった演出もシンプルながら随所で効いている。
『つぐのひ』はこの手のホラーゲームのご多分に漏れず、夜間に部屋を暗くしてヘッドフォンでプレイするのがオススメだ。ただし、第二話では一部音量が大きくなるシーンがあるので、プレイ時の音量には注意してほしい。2つの物語を比較した場合、第二話のほうが全体的な完成度がずっと高いので、第一話を過去にプレイした人にも第二話を勧めておきたい。
『つぐのひ』はふりーむ!にて公開中。第一話、第二話ともに無料で公開されている。
ふりーむ! - 『日常侵食ホラー つぐのひ』(第一話相当)
http://www.freem.ne.jp/win/game/4381
ふりーむ! - 『日常侵食ホラー つぐのひ 第二話』
http://www.freem.ne.jp/win/game/4734
現在のところ、第三話の予定があるかどうかは不明だ。開発のしあん氏は現在、戦闘つきの和風アドベンチャー『雪絵』を開発しているようで、こちらは2012年度内の完成を目指している様子。このため、『つぐのひ』の動きは2013年度以降になりそうだ。『雪絵』も個人的な好みの雰囲気を感じ取れるのでいつかプレイしてみたい。
※本連載「インディーゲームの小棚」は、4Gamerで連載されている「インディーズゲームの小部屋」のタイトルとコンセプトを真似たものですが、「インディーズゲームの小部屋」との関連は(私が一方的にファンであるというだけで)一切ございません。
4Gamer - インディーズゲームの小部屋
http://www.4gamer.net/words/001/W00176/
開発はしあん氏。公式サイトによると本作のほかにもいくつかのゲームを手がけており、『つぐのひ』も含め、すべてのゲームはRPGツクール2000で製作されているようだ。
しあん氏の公式サイト I'm Cyan
http://imcyan.web.fc2.com/
「RPGツクール」と耳にすると、スーパーファミコン後期のようなドット絵を想像しがちだが、本作は実写ベースのグラフィックで、パッと見の印象はRPGツクール作品らしかぬものとなっている。なお、登場人物はのグラフィックには実写を使用したうえで目のあたりにぼかしっぽい処理を入れている。これがなんとも言えない風合いを醸し出しており、ホラーに相応しい怪しげな雰囲気を放っている。
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匿名性を帯びた主人公の描写が、より不気味な世界観を演出している |
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第一話の主人公は男子学生 帰り道でいつも不安になるような場所は、誰にでもあるものだ |
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第二話の主人公は女子学生 ある日、彼女は交差点に佇む異様な雰囲気の女を見つける |
本作のプレイ時間は短く、第一話は5分程度、第二話は10分程度で終わる。しかも内容を話そうとすると、ほとんどネタバレになってしまうため、個人的にはあまり語りたくない。とは言っても、これでは紹介としてあまりにあっさりすぎるため、ひとつだけ付け加えておこう。
『つぐのひ』の持つ怖さは、マンガ『不安の種』*1のそれに近い。
両者で描かれている恐怖は、そのどれもが知らずのうちに身近に迫っているもので、触れてはいけないに決まっている嫌悪の塊である。それにもかかわらず数々の不気味な事象たちは、そこに確かな理由を持っていない。つまり、なぜそのような事象が起きているか想像することはできても、実際にどうであるかは確かめる術がないのである。結果的に我々が事象を回避することは不可能で、物語を知ってしまった瞬間に、我々は逃れられない不安の袋小路に追いやられてしまうのである。
『つぐのひ』も『不安の種』も根底に流れているのはどこまでも有機的な戦慄だ。いずれの作品も物語の受け手に漠然とした恐怖や不安を植え付けていくのは大きな共通点と言っていいだろう。
*1 中山昌亮によるホラー漫画シリーズ。秋田書店刊。2013年には実写映画が公開予定となっている。『不安の種+』の1巻はWeb上で試し読みができる。有名な「オチョナンさん」のエピソードもあるので、知らない人もこの機会に一読をオススメしたい。
ソク読み - 『不安の種+』 1巻
http://sokuyomi.jp/product/fuannotane_002/CO/1/
※試し読みは、リンク先の「試し読みする」から
実写を使ったビジュアルも素晴らしいが、特筆すべきは音響周りだろう。音声をベースにした心をざわつかせるSEが多数用いられており、プレイヤーの心理を不安で絡めとっていく。雑踏の音を意図的に消して無音を作るといった演出もシンプルながら随所で効いている。
『つぐのひ』はこの手のホラーゲームのご多分に漏れず、夜間に部屋を暗くしてヘッドフォンでプレイするのがオススメだ。ただし、第二話では一部音量が大きくなるシーンがあるので、プレイ時の音量には注意してほしい。2つの物語を比較した場合、第二話のほうが全体的な完成度がずっと高いので、第一話を過去にプレイした人にも第二話を勧めておきたい。
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「つぎのひ」が繰り返されるたび、それは彼らとの距離を縮めていく (画像は編集ミスではなく、もともと文字が薄暗く表示されている) |
ふりーむ! - 『日常侵食ホラー つぐのひ』(第一話相当)
http://www.freem.ne.jp/win/game/4381
ふりーむ! - 『日常侵食ホラー つぐのひ 第二話』
http://www.freem.ne.jp/win/game/4734
現在のところ、第三話の予定があるかどうかは不明だ。開発のしあん氏は現在、戦闘つきの和風アドベンチャー『雪絵』を開発しているようで、こちらは2012年度内の完成を目指している様子。このため、『つぐのひ』の動きは2013年度以降になりそうだ。『雪絵』も個人的な好みの雰囲気を感じ取れるのでいつかプレイしてみたい。